退職連鎖はなぜ止まらない?原因と止め方を組織のプロが解説

退職連鎖はなぜ止まらない?原因と止め方を組織のプロが解説
目次

1人の退職をきっかけに、立て続けに社員が辞めていく。

気づけば現場が回らず、人手不足で残るメンバーの業務もパンクし始めている。

退職連鎖の兆候を察知した経営者・人事担当者の多くが、ここで「労働環境を改善しよう」「1on1を導入しよう」という打ち手に走ります。

ただ、退職連鎖は表層の施策では止まりません。連鎖を生んでいるのは、組織の構造的な欠陥と、マネージャーの日常行動の質だからです。

マネディクが300社以上の成長企業を支援してきた中でも、連鎖退職の真因は得てして「労働条件」ではなく、「マネジメントが想定外の離職を察知できていない」ところにあります。

本記事では退職連鎖が起こる構造的な原因、止まらない組織の兆候、そして手遅れになる前に打つべき4つの具体的な打ち手を、組織開発の専門家の視点から解説します。

退職連鎖とは?「ドミノ倒し型」と「蟻の一穴型」の違い

退職連鎖は単発の退職ではなく、特定のきっかけから複数人の退職が連続的に発生する現象を指します。

発生メカニズムは大きく2タイプに分かれており、自社がどちらのタイプかを判別することが対策の出発点になります。

連鎖の構造を理解せずに「とにかく労働環境を改善しよう」と動いても、得てして的を外します。

退職連鎖の意味と定義

退職連鎖とは、ある社員の退職をきっかけに連鎖反応的に複数の退職者が発生する組織現象です。

「連鎖退職」「退職ドミノ」と呼ばれることもありますが、いずれも同じ現象を指しています。

単発の退職と決定的に異なるのは、1人目の退職そのものが2人目以降の退職を誘発する因果関係を持つ点です。

給与水準が市場と乖離しているなどの個別事情で個々人が独立に退職するのではなく、組織内に「辞める空気」「逃げ遅れる感覚」が伝染していくのが退職連鎖の本質です。

成長フェーズのベンチャー・中堅企業では、組織が30人から100人、300人と拡大する中でこの現象が発生しやすくなります。

創業期の濃密な関係性が薄まり、退職という選択が「自分にとっても現実的な選択肢」として急速にメンバーの間で正当化されていくためです。

ドミノ倒し型:エース退職が引き金になるパターン

ドミノ倒し型は、人望のある管理職やエース社員の退職を引き金に、その人を慕っていたメンバーが立て続けに辞めていくパターンです。

引き金となる人物は、業績への直接貢献だけでなく、チームの精神的支柱としても機能していたケースが多くなります。

「あの人がいるからこの会社で頑張れる」という、メンバー側の暗黙の前提が崩れた瞬間に、複数人が同時に転職活動を始めます。

このタイプで厄介なのは、引き金となる人物の退職時点で、組織側の他の指標(エンゲージメントスコア、勤怠データ等)に異常が出ていないことです。

表面上は健全に見えるため、人事側が後手に回りやすくなります。

マネディクが支援した成長ベンチャーでも、事業を牽引していたミドルマネージャーの退職から3ヶ月以内に、そのチームの過半数が連鎖的に退職した事例があります。

蟻の一穴型:職場環境の悪化が連鎖を生むパターン

蟻の一穴型は、1人の退職をきっかけに業務のしわ寄せが残メンバーに集中し、過重労働への不満が次の退職を呼ぶパターンです。

人手不足が常態化している組織では、1人の欠員でも残メンバーの業務量が体感で3割〜5割増えます。

短期では「みんなで乗り切ろう」と耐えますが、後任採用が遅れて状況が3ヶ月続くと、「自分も今のうちに逃げないと逃げ遅れる」という心理が広がります

このタイプは、ドミノ倒し型と違い、組織側の指標に異常が出やすくなります。

残業時間の増加、有給取得率の低下、サーベイスコアの悪化など、観察可能なシグナルが先行します。

逆に言えば、これらのシグナルを軽視せず、欠員後の業務再設計と後任採用を「3ヶ月以内」を期限として動けば、蟻の一穴型は止められます。

退職連鎖が起こる5つの構造的原因

退職連鎖の表面的なきっかけは「給与」「人間関係」など個別に語られがちです。

ただ、競合上位記事に並ぶ「労働条件不満」レベルの整理では、自社の打ち手は決まりません。

ここでは、マネディクが300社の支援で観察してきた構造的な原因を5つに整理します。複数の原因が同時に絡んでいる組織が大半です。

  • 原因1:エース社員・キーマンの離脱
  • 原因2:管理職のマネジメント不全
  • 原因3:業務のしわ寄せと心理的伝染
  • 原因4:評価制度の納得感の欠如
  • 原因5:「優秀人材の鳴り物入り採用」が連鎖を生む構造

原因1:エース社員・キーマンの離脱

連鎖の最大の引き金は、業績や組織風土を牽引してきたキーマンの離脱です。

キーマンが抜けると、3つの作用が同時に発生します。

1つ目は業績インパクト。担当領域の数値が短期的に落ち込み、組織全体に「うちの会社、大丈夫か」という不安が広がります。

2つ目は心理的支柱の喪失。「あの人がいるから残っていた」メンバーが具体的に動き始めます。

3つ目は採用市場へのシグナル。優秀な人材ほどリファラルや業界内ネットワークで他社へ移っていきます。

マネディク代表の川﨑が60名から1000名規模への組織拡大を経験した中でも、キーマンの離職を1件防ぐ価値は、新規採用5名分以上の組織インパクトを持つと痛感してきました。

キーマンへのリテンション投資は「全員平等」の発想とは切り離して設計する必要があります

優秀な人材の離職が組織を壊す構造は、ベンチャーで優秀な人材から辞めていく原因と対策でも詳しく整理しています。

原因2:管理職のマネジメント不全

退職連鎖の現場をたどると、得てして管理職が「想定外の離職を察知できていない」状態にあります。

管理職本人は1on1を実施しており、表面上はマネジメント業務を回しています。

ただ、1on1の中身が進捗確認と説教の場に堕ちており、メンバーの違和感を察知する機能を果たしていません。

サイバーエージェント常務執行役員CHROの曽山哲人氏も、1on1の最重要目的を「想定外の離職を防ぐこと」と整理しており、変化の兆候を捉える定点観測こそが本質的な役割だと述べています。

この機能が欠けている組織では、退職の意思が固まる前のサインを誰も拾えません。

結果として、ある日突然辞表が出る「びっくり退職」が連発し、連鎖が止まらなくなります。

管理職のマネジメント不全は、研修1回では解消しません。日常の1on1運用そのものを再設計する必要があります。

マネジメントが機能しない構造的な原因は、マネジメントできない管理職が生まれる根本原因と解決策で詳しく解説しています。

原因3:業務のしわ寄せと心理的伝染

人手不足の中で発生する退職は、残メンバーへの業務しわ寄せを通じて次の退職を誘発します。

1人の退職で残メンバーの業務量が増えるところまでは、どの組織でも観察できる現象です。

問題はそこから先、「この状態がいつまで続くのか」という見通しが示されないと、残メンバーは急速に転職活動を始めます

人間は、出口の見えない過重労働に対しては「自分も逃げないと逃げ遅れる」という心理が働きます。

SNSや転職口コミサイトで他社の動向を知っている現代の社員ほど、この閾値は低くなっています。

マネディクの支援事例でも、欠員発生後に経営層が「採用は進めているから、もう少し頑張ってくれ」と精神論で押し切った組織では、半年以内に追加で3名以上が退職する確率が高い傾向がありました。

打ち手は「業務再設計の具体的な道筋」を見せることです。プレイングマネージャーの業務負荷が連鎖の起点になるケースは、プレイングマネージャーが限界を迎える理由でも触れています。

原因4:評価制度の納得感の欠如

退職連鎖が発生している組織を観察すると、評価制度の納得感が薄い構造が背景にあります。

評価制度自体が悪いというより、運用の問題です。事業フェーズの変化が激しい成長企業では、半期に1回設定した目標が3ヶ月で陳腐化します。

それにもかかわらず当初目標通りに評価しても、「途中からやることが変わったのに当初目標で評価するのは不当だ」という不満が生まれます。

特に組織への貢献度が高い人ほど、職能の枠を超えて落ちているボールを拾います。

それが評価上見えにくいと、貢献度の高い人ほど「頑張っても報われない」と感じて先に辞めていきます

評価面談を「結果通告の場」から「腹落ちを作る対話の場」に変える、つまりセンスメイキングの運用ができている組織は、納得感の欠如を起点とした連鎖は起こりにくくなります。

納得感のある評価運用の作り方は、納得感のある評価制度とは?作り方の5ステップを参照してください。

原因5:「優秀人材の鳴り物入り採用」が連鎖を生む構造

退職連鎖の引き金が、皮肉なことに「優秀人材の鳴り物入り採用」であるケースが、成長ベンチャーでは少なくありません。

外部から優秀な人材をVIP待遇で迎え入れると、社内の期待値が一気に跳ね上がります。

その人材が前職の一般論で自社のカルチャーを批判し始めると、社員はリスペクトしている人物の発言だけにそれを真に受けます。

創業から積み上げてきた独自カルチャーが、外部の一般論によって急速に上書きされていきます。

この構造が進むと、創業期から在籍する古参メンバーが「自分たちが大事にしてきたものが壊されている」と感じ、まず辞めていきます。

さらにその優秀人材自身も、経営との衝突で「アンチ化」して退職することが多く、その時点でリスペクトを集めていた人物の離脱がさらなる連鎖を呼びます。

この構造を防ぐには、優秀人材を採用する前に「自社を理解してもらうプロセス」に十分な時間と労力を投じることが鉄則です

鳴り物入りのVIP待遇は、組織を強くするどころか壊す引き金になります。スタープレーヤーが組織崩壊を招くパターンは、組織崩壊はスタープレーヤーが原因?でも詳しく取り上げています。

退職連鎖が止まらない組織の3つの兆候

退職連鎖は、本格化する前に必ず兆候が出ています。兆候段階で察知できれば、手遅れになる前に手を打てます。

ここでは、退職連鎖が止まらない組織に共通する3つの観察可能な兆候を整理します。

1つでも当てはまるなら、現場レベルで動き出すべき段階です。

  • 兆候1:マネージャーが「定点観測」できていない
  • 兆候2:評価面談で「腹落ち」が作れていない
  • 兆候3:カルチャーの翻訳役が不在

兆候1:マネージャーが「定点観測」できていない

最も早く出る兆候は、マネージャーの1on1が「定点観測」として機能していないことです。

定点観測とは、毎回同じ質問を投げかけ、メンバーの表情・声のトーン・言葉選びの変化を観察するアプローチです。

「最近、業務でストレスを感じる場面はありますか」「直近2週間で一番モヤモヤしたことは何ですか」といった、コンディションを定点で観測する設問を毎回繰り返します。

この機能が果たせていない組織では、1on1の場で交わされるのは進捗確認や雑談だけで、メンバーの違和感を察知する仕組みがありません。

兆候の見極め方は単純です。最近の「びっくり退職」(マネージャーが事前に察知できなかった退職)の件数を数えてみてください

直近半年で2件以上あれば、定点観測が機能していない兆候とみていいでしょう。1on1が形骸化する構造的な原因は、1on1の形骸化はなぜ起こる?に詳しい解説があります。

兆候2:評価面談で「腹落ち」が作れていない

評価面談後に「あの評価は納得いかない」という声が現場から複数上がる組織は、次の評価サイクルまでに退職連鎖が始まる確率が高くなります。

評価制度に致命的なバグがあるケースは稀です。多くの場合、運用の問題です。

事業のピボットや役割の変更があったにもかかわらず、評価面談で「制度上はこういう評価ですが、こういう貢献もあったのでこのロジックで評価しました」という対話が行われていません。

つまり、センスメイキング(腹落ちを作るプロセス)が運用に組み込まれていない状態です。

特に組織への貢献度が高いキーマンほど、自分の仕事と評価の納得感に敏感です。

彼らが「ここで頑張っても見えていない」と感じた瞬間に、転職市場へ目が向きます。

評価面談を「結果通告の場」と捉えているマネージャーが多い組織では、この兆候は構造的に発生し続けます。

兆候3:カルチャーの翻訳役が不在

経営層が掲げる理念や行動指針が、現場のマネージャーを介して日々の業務行動に翻訳されていない組織は、退職連鎖の温床になります。

カルチャーの翻訳役とは、「うちの会社のバリューは挑戦と誠実だが、それは具体的にこういう場面でこう動くということだ」と、日常の業務局面で部下に翻訳して見せる存在です。

組織が30人、50人と拡大する中で、経営者がメンバー全員の行動を直接マネジメントすることは物理的に不可能となります。

翻訳役を担えるのは現場のマネージャー以外にいません。

この翻訳役が不在の組織では、社員は「自分の仕事が会社の何に貢献しているのか」を見失います。

所属感とパーパスの両方が希薄になり、退職への心理的ハードルが急速に下がります

経営層が「うちは理念は浸透している」と思い込んでいる組織ほど、現場では翻訳が止まっていることが多くなります。

理念浸透が現場行動に届かない構造は、なぜベンチャーの理念は浸透しないのかで詳しく整理しています。

ここで紹介した3つの兆候を観察可能なチェックリストに落とし込んだ資料を、無料で配布しています。

事業転換期に陥りがちな組織崩壊の4フェーズを20項目のセルフチェックで5分で診断できる内容で、退職連鎖の兆候段階で自社がどこに位置するかを構造的に可視化できます。

退職連鎖を実質的に止める4つの打ち手

退職連鎖を止める打ち手として、多くの記事で語られるのは「労働環境改善」「1on1導入」「エンゲージメント調査」などの一般的な施策です。

ただ、これらは「実施するかどうか」ではなく「どう実施するか」で効果が決まります。

マネディクが300社の支援で確認してきた、再現性の高い4つの打ち手を、観測可能な行動レベルまで分解して解説します。

  • 打ち手1:1on1を「びっくり退職防止」の定点観測に再設計する
  • 打ち手2:キーマンへのリテンション投資を厚くする
  • 打ち手3:評価制度を「センスメイキング」で運用する
  • 打ち手4:マネージャーの行動を「観測可能」に変換する

打ち手1:1on1を「びっくり退職防止」の定点観測に再設計する

最もレバレッジが効くのは、1on1の目的を「びっくり退職防止」一点に絞り、定点観測の場に再設計することです。

世間では1on1に「部下の成長支援」「目標達成のサポート」「キャリア相談」など、あらゆる目的が詰め込まれています。

結果、アジェンダが多すぎてどれも薄くなるか、進捗確認と説教の場に堕ちます。

退職連鎖を止める観点では、目的を1つに絞ります。毎回同じ質問を投げ、メンバーの「いつもと違う」という変化のサインをキャッチします。

話すのはメンバー、マネージャーは聞き役に徹し、表情・声のトーン・言葉選びの些細な変化に集中します。違和感を覚えたら「何かあった?」と一歩踏み込みます。

目標設定やフィードバックは別の場でやれば十分です

1on1という定期実施の場を、定点観測専用に使い切ることで、びっくり退職の発見率は劇的に上がります。

打ち手2:キーマンへのリテンション投資を厚くする

退職連鎖の引き金となるキーマンへのリテンション投資は、「全員平等」の発想から切り離して設計します。

組織への貢献度が高い人材を1名失う影響は、業績インパクト・心理的支柱の喪失・採用市場へのシグナルの3点が同時に発生し、新規採用5名分以上の組織インパクトに相当します。

この事実を直視せず、全員平等に1on1の時間を分配する運用では、リテンションは構造的に手薄になります

具体的には、キーマンに対しては経営層・直属上長の双方が頻繁に接点を持ち、業務の壁打ち相手として機能します。

飲みやランチの場も含めて、業務外の関係性に意図的に投資します。

重要な意思決定の場に呼び、当事者として議論に参加させることで、所属感とパーパスを強化します。

「平等性が崩れる」と懸念する組織もありますが、キーマンが抜けて連鎖退職が始まれば、結果として全員が損をします。事業合理上、キーマンへの集中投資は正当化されます。

打ち手3:評価制度を「センスメイキング」で運用する

退職連鎖の根に評価納得感の欠如がある組織では、評価制度自体を作り直すより、運用にセンスメイキングを組み込む方が効きます。

センスメイキングとは、評価結果を一方的に通告するのではなく、本人と対話して腹落ちを作るプロセスです。

評価制度はあくまで目安と捉え、致命的なバグさえなければ良いと割り切ります。

実際の評価では「制度上は厳密にはこの評価になりますが、こういう貢献もあったのでこのロジックで評価しました」という解釈を加え、本人とマネージャーが対話する場を作ります。

マネージャー間のキャリブレーション、つまり評価擦り合わせも行い、全社としての方向性は揃えます。

Googleなど世界の先端企業も類似のプロセスを導入しており、評価運用の標準的な型として確立されています。

評価面談を「結果通告の場」から「腹落ちを作る対話の場」に変えるだけで、貢献度の高いキーマンの早期離脱は大きく減ります

打ち手4:マネージャーの行動を「観測可能」に変換する

退職連鎖の対策をマネージャーに降ろすとき、「コミュニケーションを徹底する」「信頼関係を構築する」といった抽象的な指示で終わると、何も変わりません。

マネディクが研修で徹底しているのは「形容詞・副詞を禁止し、すべてを観測可能な行動に変換する」というメソッドです。

たとえば「部下の話をしっかり聴く」という指示は観測不可能です。

これを「1on1で、部下が話している間はメモを取らず、相槌と要約のみを返す。マネージャーから話す時間は10分以内に収める」のように、誰が見ても判断できる行動レベルまで分解します。

行動レベルまで具体化されていれば、マネージャー自身がやれているかどうかを毎週セルフチェックできます。マネージャー間でも、互いの実践度を共有しやすくなります。

「頑張ります」「徹底します」では曖昧で、半年後に振り返っても何も変わっていない、というよくある事態を防げます。

退職連鎖の打ち手は、抽象論ではなく観測可能な行動の積み重ねでしか動きません。行動の具体化メソッドの考え方は、スキルマップは意味ない?形骸化する5つの原因と効果的な運用方法でも詳しく取り上げています。

ここまで紹介した4つの打ち手は、マネディクの支援先300社のうち取り組みを徹底した企業ほど、半年〜1年で退職率の改善が見られています。

自社の打ち手の優先順位を整理する出発点として、組織健康度チェックシートで20項目のセルフ診断を活用ください。

連鎖退職への手遅れを防ぐための初動と注意点

退職連鎖の兆候を察知した直後に、何から手を打つか。

ここでの初動の質が、「手遅れ」と「持ちこたえ」を分けます。

ここでは、複数の「びっくり退職」が発生した直後の具体的な初動と、サーベイ運用に関するよくある落とし穴を整理します。

初動:複数の「びっくり退職」が出た直後にやること

連続して2〜3名の想定外退職が出た直後に最優先で行うのは、残メンバーへの個別ヒアリングです。

サーベイ実施から結果分析までを待つ余裕はありません。

経営層または信頼関係のある幹部が、特に業績影響の大きいキーマンと早期に1対1で対話を持ちます。

「何があれば、この会社で続けたいと思えるか」を率直に聞き、即座に動ける項目には即日対応します

並行して、業務しわ寄せが発生しているチームの業務再設計を最優先で進めます。

「採用は進めているからもう少し頑張ってくれ」という精神論で押し切ると、半年以内に追加退職が出る確率が急上昇します。

後任が決まるまでの暫定の業務分担を経営層が責任を持って描き、現場に「いつまでこの状態が続くか」の見通しを示します。

初動の速さは、退職連鎖を「事象」のまま終わらせるか、「組織崩壊」にまで進展させるかを分けます。

退職ラッシュ局面での具体的な立て直し手順は、退職ラッシュの立て直しはどうすればいい?でも詳しく解説しています。

注意点:サーベイ依存の落とし穴

退職連鎖の対策として「まずサーベイを導入しよう」という発想は、典型的な落とし穴です。

サーベイは観測装置として有用ですが、それ自体が解決策ではありません。

スコアを評価指標化したり、マネージャーの責任問題に直結させたりすると、本音が書かれなくなり、観測装置としての機能を失います

得てして、サーベイのスコア改善が目的化した瞬間に、組織は機能不全に陥ります。

マネージャーが「うちのチームのスコアを下げないでくれ」と部下にプレッシャーをかけ、部下は本音を書かなくなり、問題は水面下で進行します。

本格的な退職連鎖が表面化したときには、サーベイ上は「異常なし」と見えていることすらあります。

サーベイを使うなら、結果を受けて経営層・マネージャーが「次に変える行動」をセットで議論する仕掛けを作ることが必須です。

スコアそのものは評価の対象にせず、対話の材料として使い切る運用設計が肝心です。サーベイ運用の落とし穴は、パルスサーベイは本当に意味がない?運用のメリット・デメリットでもより詳しく整理しています。

まとめ:退職連鎖は「マネージャーの日常行動」から止める

ここまで、退職連鎖の2つのタイプ・5つの構造的原因・3つの兆候・4つの打ち手・初動と注意点を解説してきました。要点を整理します。

  • 退職連鎖はドミノ倒し型(エース退職起因)と蟻の一穴型(職場環境起因)に分かれ、対策の出発点が異なる
  • 構造的原因は、キーマン離脱/管理職のマネジメント不全/業務のしわ寄せと心理的伝染/評価納得感の欠如/優秀人材の鳴り物入り採用の5つ
  • 兆候は、定点観測の欠如/評価面談での腹落ち不全/カルチャー翻訳役の不在の3つで、兆候段階での察知が手遅れを防ぐ
  • 止める打ち手は、1on1の定点観測化/キーマンへのリテンション集中投資/評価のセンスメイキング運用/マネージャー行動の観測可能化の4点

退職連鎖は表層の労働条件改善では止まりません

連鎖を生んでいるのは、組織の構造的な欠陥と、マネージャーの日常行動の質です。

サーベイのスコア管理や形式的な1on1ではなく、観測可能な行動レベルでマネージャーの実践を変えていくことが、退職連鎖を実質的に止める唯一の道です。

退職連鎖の兆候を察知している経営者・人事責任者は、まず自社の組織健康度を構造的に把握するところから始めることをおすすめします。

マネディクが20項目のセルフ診断にまとめた組織健康度チェックシートで、自社が組織崩壊の4フェーズのどこに位置するかを5分で可視化できます。


組織健康度チェックシート

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退職連鎖に関するよくある質問

退職連鎖と連鎖退職の違いはありますか?

両者は同じ現象を指します。連鎖退職・退職ドミノとも呼ばれますが、いずれも1人の退職をきっかけに複数の退職が連続的に発生する状態を意味します。用語より、自社のタイプ判別が重要です。

連鎖退職の「末路」はどうなるのでしょうか?

放置すると業績悪化・顧客対応の質低下・採用難が同時進行で進み、最終的に組織崩壊や事業撤退に至ります。兆候段階で初動を打てれば持ちこたえは可能で、手遅れの境目はキーマンの半数以上が離脱した時点です。

中堅社員の連鎖退職を防ぐ方法は?

中堅社員はキャリアの伸び悩みや評価納得感の欠如で離脱しやすい層です。1on1での定点観測に加え、新規プロジェクトへの抜擢や経営との直接対話の機会を意図的に作ると効きます。

退職連鎖は誰の責任になりますか?

最終責任は経営者にあります。ただ、現場で連鎖を防ぐ実行責任はマネージャー、仕組み構築の責任は人事と分担します。「誰が悪いか」の犯人探しは生産的ではなく、構造的原因の特定と打ち手の実行に向き合うべきです。

連鎖退職の「逃げ遅れ」とは何ですか?

残メンバーが「自分も今のうちに転職しないと、人手不足の組織に取り残される」と感じる心理状態を指します。出口の見えない過重労働が3ヶ月以上続くと顕在化します。経営層が業務再設計の見通しを示すことで防げます。

連鎖退職を止めるのにサーベイは有効ですか?

観測装置としては有用です。ただし、スコア管理を目的化すると逆効果になります。スコアそのものは評価対象にせず、結果を受けて「次に変える行動」を経営・マネージャーで議論する仕掛けが必要です。

連鎖退職が始まったらまず何をすべきですか?

最優先は残ったキーマンへの個別対話と、業務しわ寄せが発生しているチームの業務再設計です。サーベイ実施を待つ余裕はありません。経営層が直接動く局面と認識し、即日〜1週間で動ける項目から手を打ちます。

川﨑 俊介
記事を書いた人
川﨑 俊介

新卒で当時6期目(60~70名規模)の株式会社ジーニーへ入社。入社後3年間でリーダー、マネ―ジャー、部長とマネジメント経験を積み、入社後4年目で事業責任者兼執行役員に就任。組織も300名を超え、グロース上場を経験。 その後海外事業など含む複数事業の責任者、常務執行役員を経て、2022年に取締役に就任。経営企画や人事などコーポレート領域も管掌。組織規模としても1000名を突破。 2024年4月に独立し、個人で人事・経営コンサル業も成長企業に対して実施しつつ、同年12月にマネディク株式会社CEO/アクシス株式会社取締役COOにも就任。

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