マネジメント

プレイングマネージャーが「限界」を迎える理由 / 業務負荷を上手くコントロールする方法と解決STEP

プレイングマネージャーが「限界」を迎える理由 / 業務負荷を上手くコントロールする方法と解決STEP
目次

はじめに

「プレイヤー業務、マネジメント業務に追われて、もう限界...。こんな状態はおかしいのではないか。」

上記のように目の前の数字を追いながら、チームの育成も求められ、心身の限界を感じるプレイングマネージャーは少なくありません。

プレイングマネージャーという役割は、決してあなたの能力が低いからではなく、構造的な矛盾を抱えているため、「その状態に疑問を抱える」のは当然です。

しかし、人手不足の組織や成長途上の企業は、「人手が少ない」「変化が大きい」といった特殊な環境が故に、プレイングマネージャーを無くすのは構造的に難しい背景があります。そのため、「こんな会社はおかしい」「もう辞めよう」と思う前に、あなた自身がこの環境を「コントロール」する具体的な思考法を身につける必要があるのです。

本記事では、この「限界」と「その状態への疑問」の正体を明らかにし、あなたが本来あるべきプレイングマネージャーの状態を実現させるための具体的な思考フレームと、組織の負荷を仕組みで支える解決ステップを解説します。

また、本記事で解説する内容は、300社以上の成長企業をご支援してきた経験から体系化した、ベンチャー特有の課題を乗り越えるための「11の思考フレーム」に基づいています。
詳細は以下の資料からぜひ、ご確認ください。

なぜプレイングマネージャーは限界を迎えるのか?

プレイングマネージャーとは、その名の通り、一人のプレイヤーとして個人の目標や成果を追い求めながら、同時にチームを率いるマネージャーとしての役割も担う管理職のことを指します。

特に成長企業では、リソース制約やスピード重視の文化といった構造的な要因からこの役割が生まれ、現場のエースがリーダーを兼任します。一見効率的ですが、この「プレイヤー」と「マネージャー」という二足のわらじを履き続けることこそが、「プレイングマネージャーの限界」という深刻な問題を引き起こす原因となっています。

プレイングマネージャーの限界とは、主に3つの構造的な状態に分類させることができます。
以下で、プレイングマネージャーが陥りやすい3つのワナについてそれぞれ解説していきます。

役割のワナ:プレイヤーとマネージャーの期待値が曖昧

プレイングマネージャーが陥りやすいワナの1つ目は「役割のワナ」です。
プレイングマネージャーに課せられる役割は、「プレイヤーとしての成果」と「チームとしての成果」の二つです。

この二つの役割は、求められる時間軸と成果が異なるため、本質的に矛盾しています。
特に人手不足が慢性化している中小・ベンチャー企業では、この矛盾が極端になり、マネージャーは極めて高度な思考を求められます

特に現場寄りのマネージャーは短期的な成果(数字をつくる)と、中長期的なチームの仕組みづくり(人をつくる)を求められます
つまり、成長企業では「どちらか一方を犠牲にする」OR志向ではなく、矛盾を抱えながらも長期的に見た際に両立させていると言われるAND志向が不可欠になります。

しかし、この考え方が経験値としてないマネージャーからすれば、どちらも完璧に行おうとすることで「何をどこまですれば評価されるのか分からない」「常に中途半端で向いていないのではないか...」といったプレイングマネージャーとしての限界を感じてしまいます。

時間のワナ:緊急度の高いプレイヤー業務の常態化

プレイングマネージャーが陥りやすいワナの2つ目は「時間のワナ」です。

目の前の目標達成やトラブル対応といったプレイヤー業務は、常に「緊急かつ重要」なタスクとして降りかかってきます。一方、部下の育成やチームビルディングといったマネジメント業務は「重要だが緊急ではない」ため、どうしても後回しにされがちです。

このように緊急度が上がりがちなプレイヤー業務の常態化が、マネジメント業務への時間を奪い、プレイングマネージャーとしてうまく機能できていないと限界を感じてしまうのです。

評価のワナ:個人の成果が評価され、育成が評価されない

プレイングマネージャーが陥りやすいワナの3つ目は「評価のワナ」です。

多くの企業では、個人の売上や目標達成率といったプレイヤーとしての成果は評価しやすく、給与や賞与に直結します。

しかし、「部下を育成した」「チームの雰囲気を良くした」といったマネジメントの貢献は、評価基準が曖昧で、正当に評価されにくいのが現実です。

この「マネージャー業務」を頑張っても報われない状況が、プレイングマネージャーとしての限界を引き起こしやすくなってしまいます。

プレイングマネージャーの限界が及ぼす影響

プレイングマネージャーが限界を迎えることで、プレイングマネージャー本人に最も深刻な影響が及び、それがチーム、ひいては組織全体へ多大な悪影響として波及していきます。

以下で、プレイングマネージャーの限界がもたらす影響を「個人」「チーム」「組織」の3つの視点で解説していきます。

【個人への影響】燃え尽き症候群とキャリアの停滞

終わらない業務、常に付きまとうプレッシャー、そして誰にも相談できない孤独感。これらはプレイングマネージャーを精神的に追い詰め、燃え尽き症候群(バーンアウト)を引き起こします。

実際、株式会社mentoの調査によると、中間管理職の約8割が月に1回以上「燃え尽き症候群」を経験していると報告されています。


(株式会社mento「2024年調査 ミドルマネージャーの実態調査」)

管理職の半数以上がバーンアウトを感じており、これはもはや個人の頑張りでは解決できない構造的な問題であるということは、これらを放置してしまうと、最悪の場合、心身の健康を損ない、休職や退職に至るケースも少なくありません。

また、マネジメントスキルを磨く時間がなく、プレイヤーとしての知識やスキルも陳腐化し、キャリアの停滞を招くリスクもあります。
特に、上位レイヤーに求められる戦略的な思考力(コンセプチュアルスキル)や、組織を動かすヒューマンスキルを意識的に開発し続ける機会が奪われてしまいます。その結果、プレイヤーとしても、マネージャーとしても中途半端な状態が続き、将来のキャリアパスが閉ざされてしまうという構造的なリスクに陥ってしまうのです。

【チームへの影響】リーダーシップの崩壊とパフォーマンスの低下

燃え尽き症候群が進行したマネージャーは、判断力や創造性が低下し、意思決定の質が低下するリスクがあります。
また、精神的な疲弊からチーム内のコミュニケーションが滞り、信頼関係を保つことが難しくなってしまうことで、以下のようなリスクが出てきます。

  • 育成機会の喪失と指示待ちの常態化:

    マネージャーがプレイヤー業務に忙殺されることで、部下へのフィードバックや育成の機会が失われます。あるあるなのは、「自分でやった方が早い」とマネージャーが仕事を抱え込み、部下は挑戦の機会を奪われているパターンです。
    そのような状態が続いてしまうと自律性の低い指示待ち集団になってしまいます。

  • 離職リスクの増大

    また、活気が失われたチームでは、優秀な若手や中堅社員が成長機会のなさに失望し、離職率の増加に直結してしまいます。

【組織への影響】生産性が低下し、事業成長が鈍化する

個人の燃え尽きは小さなもののように思われがちですが、母数が多くなれば最終的に組織の基盤を揺るがすレベルになってしまいます。

チームのパフォーマンス低下や離職率の増加(特にキーマンの流出)は、採用・教育コストの増大と相まって、組織全体の生産性を慢性的に低下させてしまいます。

さらに、マネージャー層が目の前の緊急度の高いプレイヤー業務に追われることで、中長期的な戦略立案や新しい取り組みへの着手が停滞します。その結果、組織は短期的な成果に終始し、事業成長のスピードが鈍化し、競争力を失うという組織として最も避けたい深刻な結果を招きます。

【限界を迎えたマネージャー向け】具体的なアクションプラン

特に成長ベンチャー企業だと、目の前のプレイヤー業務と慣れないマネージャー業務に忙殺され、限界を迎えてしまうマネージャーの方は多くいらっしゃるかと思います。

一人で抱え込まず、まずは自分自身でコントロールできる範囲から行動を変えていきましょう。

以下で、プレイヤー業務とマネージャー業務をうまく両立し、プレイングマネージャーとして成果を出すための具体的なアクションプランを解説していきます。

STEP1:業務を分解し「やらないこと」を決める

時間は有限です。まず、自分が抱えている全ての業務を書き出し、「本当に自分がやるべき仕事」と「そうでない仕事」に仕分けることから始めましょう

具体的な時間管理術として「アイゼンハワー・マトリクス」というものがあり、タスクを「重要度」と「緊急度」の2軸で4つに分類し、取り組む優先順位を決めます。

多くの人は第一・第三領域に追われがちですが、本当に注力すべきは第二領域です。

そして、第三・第四領域のタスクをいかに減らすかが、時間を生み出す鍵となります。この領域のタスクは部下に少しずつ任せていくことで、マネージャー自身が抱える仕事を見直すことができます。
また、能力が高い部下に関しては、第二領域の「業務プロセス改善・標準化」あたりから任せていくことも部下の成長にとって有意義です。

STEP2:「任せる」ための心理的安全性と仕組みを作る

「部下に任せたいけど、クオリティが心配で…」その気持ちはよく分かります。

しかし、あなたが仕事を抱え続ける限り、部下は永遠に成長しません。勇気を持って「任せる」ことから始めましょう

【具体的な声掛けの例】

  • 期待を伝える 「このプロジェクトは、〇〇さんだからこそ任せたい。君の△△という強みを活かしてほしいんだ。」
  • 目的を共有する: 「このタスクの目的は、単に資料を作ることじゃない。お客様に△△と感じてもらうことなんだ。そのために何が必要か、一緒に考えよう。」
  • 失敗を許容する: 「最初から完璧じゃなくていい。何かあったら全力でサポートするから、思い切ってやってみてほしい。」

また、業務の丸投げは禁物です。定期的な進捗確認の場(週1回の30分チェックインなど)を設け、「いつでも相談できる」という心理的安全性を確保することが、任せる勇気と部下の成長に繋がります。

部下への仕事の任せ方は以下の記事で詳細にご説明しています。


主体性がない部下の育て方|問題は「やる気」じゃない!?主体性がない部下の原因と育成術

主体性がない部下にお悩みですか?その原因は「やる気」ではなく、組織の仕組みにあるかもしれません。本記事では、部下の主体性を引き出し、自律型人材を育てるための具体的なマネジメント術と組織づくりを、ベンチャー経営の視点から解説します。

service.manadic.com

og_img

STEP3:上司や人事を“使う”ための相談・交渉術

あなたの「限界」は、個人の問題であるだけでなく組織の問題です。

一人で解決しようとせず、上司や人事を“味方”につけましょう。感情的に「辛いです」と訴えるのではなく、事実とデータを基に建設的な相談をすることが重要です。

【相談・交渉のフレームワーク】

  1. 現状の共有(事実): 「現在、プレイヤー業務が全体の7割を占めており、月の残業時間は平均〇〇時間です。」
  2. 問題提起(影響): 「このままでは、メンバーの育成に時間を割けず、来期の目標達成が困難になる可能性があります。また、〇〇さんのような若手エースの離職リスクも懸念されます。」
  3. 解決策の提案: 「そこで、担当業務の一部を〇〇さんに任せ、私のマネジメント業務の割合を3割から5割に増やしたいと考えています。そのために、〇〇さんの育成プランについてご相談させてください。」

このように、客観的なデータを用いて「組織の課題」として提示することで、上司や人事も問題を自分ごととして捉え、具体的なサポートをしやすくなります。

プレイングマネージャーを「仕組み」で支え、組織成長を持続させる経営の役割

「事業の成長が鈍化してきた…」「組織の実行力が落ちている気がする…」

そのボトルネックは、プレイングマネージャーという“個人”に依存した、脆弱なマネジメント体制にあるかもしれません。

経営者として、事業の持続的な成長を支える強い組織基盤を構築する視点が求められます。ここでは、プレイングマネージャーの負荷を「仕組み」で軽減し、組織力を高めるアプローチを解説していきます。

「プレイング」と「マネジメント」を分離する判断基準

事業の成長フェーズに合わせて、都度マネジメント体制は見直す必要があります。

いつまでもプレイングマネージャーに依存していては、組織はスケールしません。以下の基準を参考に、「専任マネージャー」を設置するタイミングを検討しましょう

  • チームの人数: 一般的に、一人のマネージャーが見られる部下の人数は7〜8人が限界(スパン・オブ・コントロール)と言われます。これを超える場合は、チームを分割するか、専任マネージャーを置くべきです。
  • 事業の複雑性: 新規事業の立ち上げや、複数のプロダクトを抱えるなど、事業の複雑性が増したタイミングは、マネジメントの専門性がより重要になります。

  • 次世代リーダー育成の必要性: 組織の未来を考えたとき、次の経営幹部候補を育成するためには、マネジメントに専念できる環境を用意することが不可欠です。

ただとはいえ、「完全にマネジメントにだけ専念する」というのはベンチャーフェーズにおいては非現実的である部分も多く、結局プレイングもしてもらいながらマネジメントもしてもらうことになるかと思います。

その場合は、マネージャー自身に「ベンチャーでのマネジメントとは?」「ベンチャー特有のマネジメントの考え方」について学んでもらうことも有効です。

ベンチャー特有の考え方をインプットしてもらうだけで、「ベンチャーは〇〇が前提としてあるので、この場合は△△の考え方が有効」など一見不合理な状況でもよしなに動いてくれるようになります。

以下資料で「ベンチャー企業で成果を出し続けるマネージャーに共通する思考フレーム」をご紹介しているので、ベンチャーマネージャーの育成にご活用ください。

失敗事例から学ぶ、組織改革の“NG行動”

また、良かれと思って行った改革が、逆に組織を混乱させることもあります。
よくある失敗から学び、同じ轍を踏まないようにしましょう。

  • 1つ目のNG行動:エースプレイヤーをいきなり専任マネージャーにする
    • 十分な研修やサポートがないまま、本人の意向も確認せずに任命すると、本人は強みを活かせず、チームも混乱します。
  • 2つ目のNG行動:役割は変えずに「マネジメントも頑張れ」と精神論で済ませる
    • 業務量が増えるだけで、根本的な解決にはなりません。マネージャーの時間を確保するための業務分担や権限移譲がセットで必要です。
  • 3つ目のNG行動:経営陣の考えがバラバラ
    • 経営陣の中でマネジメントの重要性に対する認識が統一されていないと、現場は混乱します。まずは経営チーム内で、あるべき組織像を徹底的にすり合わせることが重要です。

まとめ:プレイングマネージャーの限界は、組織変革のサイン

プレイングマネージャーが感じる「限界」は、個人の問題ではなく、組織が次のステージへ成長するための重要なサインです。

この課題を解決するには、

①マネージャー自身の考え方やスキルをアップデートすること
②役割の明確化や評価制度といった組織の仕組みを変えること

この両輪からのアプローチが不可欠です。

我々マネディクは、急成長ベンチャーの組織課題解決に特化したサービスを複数ご提供しており、これまで300社を超える成長ベンチャー企業様の組織変革を支援してきました。

そのご支援の中で、ベンチャーというカオスな環境下でも成果(個人も組織も)を出し続けるマネージャーには「共通している考え方」がありました。

その「ベンチャーで成果を出すマネージャーに共通している11個の思考フレーム」を以下の資料で詳細に解説しています。

「プレイングマネージャーがうまく機能しておらず、業績が伸びない」「マネージャーの育成に困っている」といったお悩み・課題感をお持ちの方はぜひ以下からダウンロードいただき、貴社のマネージャー育成にお役立てください。

川﨑 俊介
記事を書いた人
川﨑 俊介

新卒で当時6期目(60~70名規模)の株式会社ジーニーへ入社。入社後3年間でリーダー、マネ―ジャー、部長とマネジメント経験を積み、入社後4年目で事業責任者兼執行役員に就任。組織も300名を超え、グロース上場を経験。 その後海外事業など含む複数事業の責任者、常務執行役員を経て、2022年に取締役に就任。経営企画や人事などコーポレート領域も管掌。組織規模としても1000名を突破。 2024年4月に独立し、個人で人事・経営コンサル業も成長企業に対して実施しつつ、同年12月にマネディク株式会社CEO/アクシス株式会社取締役COOにも就任。

管理職育成の理想を実現するサービス「マネディク」