パルスサーベイは本当に意味がない?運用のメリット・デメリット、効果的な運用方法を解説

パルスサーベイは本当に意味がない?運用のメリット・デメリット、効果的な運用方法を解説
目次

パルスサーベイとは?

パルスサーベイとは、従業員のコンディションやエンゲージメントの状態を、高頻度かつタイムリーに把握するための調査手法です。

「パルス(Pulse)」が「脈拍」を意味するように、組織の健康状態を定期的にチェックする健康診断のようなものとイメージすると分かりやすいでしょう。

週に1回、月に1回といった短い間隔で、5〜15問程度の簡単な質問に回答してもらうのが一般的です。

これにより、現場で起きている変化をいち早く察知し、迅速な対策を打つことが可能になります。

エンゲージメントサーベイとの違い

パルスサーベイとよく比較されるのが「エンゲージメントサーベイ」です。両者の最も大きな違いは「頻度」と「目的の深度」にあります。

エンゲージメントサーベイは、半年に1回や年に1回といった低い頻度で、50問以上の詳細な質問を通じて、組織全体の構造的な課題を深く分析することを目的とします。

一方、パルスサーベイは、日々の細やかな変化を捉え、現場レベルでの迅速な改善アクションに繋げることを得意としています。


パルスサーベイ

エンゲージメントサーベイ

目的

リアルタイムな状態把握、早期の課題発見

網羅的・構造的な課題分析

頻度

高頻度(毎日、週1回、月1回など)

低頻度(半年に1回、年1回など)

質問数

少ない(5〜15問程度)

多い(50問以上)

分析

現場レベルでの迅速な改善

経営レベルでの戦略策定

なぜパルスサーベイは「意味ない」と言われるのか?

多くの企業で「パルスサーベイは意味がない」と思われ、形骸化してしまうのには、共通したパターンがいくつか存在します。

自社の状況と照らし合わせながら、問題の根本原因を探ってみましょう。

パターン1:スコアを改善することが目的になっている

1つ目のパターンは、パルスサーベイを「実施すること」や「スコアを上げること」自体が目的になってしまっていることです。

これはパルスサーベイに限らず、人事施策に起こりがちな事象です。

「何のために組織の状態を可視化するのか」「その結果をどう改善に繋げるのか」という本来の目的が、経営層や管理職、そして従業員にまで浸透していないのです。

目的が曖昧なままでは、管理職はただスコアを上げるための表面的な施策に走り、従業員は「またやらされ仕事が増えた」と感じるだけです。

パターン2:メンバーが本音で答えづらい構造になっている

2つ目のパターンは、メンバーが本音で答えづらい構造になっていることです。

リーダーやマネージャーからの伝達がうまくいっていないと、「スコアが人事評価に影響するのではないか」という疑念から、従業員が当たり障りのない回答に終始してしまうケースも少なくありません。

これでは、組織の実態を何も映し出さない、ただの儀式になってしまいます。

パターン3:結果の共有や改善アクションがなく、やりっぱなしになっている

3つ目のパターンは、結果の共有や改善アクションがなく、やりっぱなしになっていることです。

スコアが良かった、悪かったという結果だけを見て、その背景にある従業員の感情や具体的な事象について対話がなければ、何の意味もありません。

結果を現場にフィードバックせず、具体的な改善アクションにも繋がらない「やりっぱなし」の状態では、メンバーは「どうせ本音で答えても何も変わらない」という諦めを感じてしまいます。

パターン4:質問が曖昧で、課題の本質が見えない

4つ目のパターンは、質問が曖昧で課題の本質が見えないことです。

「仕事に満足していますか?」といった抽象的な質問ばかりでは、具体的に何を改善すれば良いのかが見えてきません。

評価者によって解釈が異なり、客観的な分析が困難になります。また、現場の実務と乖離した質問は、従業員の当事者意識を削ぎます。

汎用的なテンプレートをそのまま使うのではなく、自社の課題や目指す組織像に即した具体的な質問を設計しなければ、本質的な課題解決には繋がりません。

「意味ない」パルスサーベイが組織に与える3つの弊害

形骸化したパルスサーベイは、効果がないだけでなく、組織に深刻な悪影響を及ぼす危険性があります。

以下では、形骸化したパルスサーベイが引き起こす3つの弊害をそれぞれ詳しくお伝えします。

弊害1:信頼関係の崩壊

1つ目の弊害が、信頼関係の崩壊です。

「どうせ本音を言っても無駄だ」という無力感や、「スコアで自分たちが評価されている」という不信感は、従業員と会社の間に見えない壁を作ります。

サーベイが、本来は信頼関係を築くための1on1などのコミュニケーションを、かえってギクシャクさせてしまうことすらあるのです。

弊害2:主体性の喪失

2つ目の弊害が、主体性の喪失です。

フィードバックのないサーベイは、従業員に「自分の声は届かない」というメッセージを発信し続けるのと同じです。

これにより、従業員は組織課題を自分事として捉え、改善のために主体的に行動しようという意欲を失っていきます。指示待ちの姿勢が蔓延し、組織の活力は失われます。

弊害3:本質的な課題の見過ごし

3つ目の弊害は、本質的な課題の見過ごしです。

最も深刻な弊害は、とりあえずでパルスサーベイを続けることで、経営者や人事が「何かやっている感」に満足してしまうことです。

スコアという見せかけの数字に一喜一憂し、その裏にあるマネジメントの質、リーダーシップの欠如、カルチャーの未浸透といった、本当に向き合うべき本質的な課題から目を背けさせてしまうのです。

パルスサーベイの効果を最大化する3つのステップ

ここまでパルスサーベイが意味ないと言われてしまう理由や意味がないパルスサーベイが起こす弊害に関して解説してきましたが、結論パルスサーベイ自体に非があるわけではなく、その運用の仕方に問題があります。

このパートでは、パルスサーベイ本来の効果を発揮するための3つのステップをご紹介していきます。

ステップ1:目的を再定義する「何のために、誰のためにやるのか?」

まず立ち返るべきは、「このサーベイを通じて、組織をどうしたいのか」という目的の再定義です。

目下解決したい課題(もしくは防ぎたい事態)を明確にして、「そのために、従業員のどんな状態を実現したいのか」を明確に言語化します。

そして、その目的を経営層、管理職、従業員全員に、繰り返し丁寧に伝え、共通認識を持つことが全てのスタートラインです。

ステップ2:結果を”対話のきっかけ”にする「分析より、まず対話を」

次にサーベイの結果をそのまま受け取るのではなく、1on1の際の対話のきっかけにしましょう

前提として、サーベイでは起きている事象は把握できますが、それが起きている本質的な課題まではわかりません。

スコアが低い項目があれば、「なぜだろう?」とチームで話し合う。良い結果が出たなら、「何が要因だろう?どうすればもっと良くできる?」と議論する。

分析に時間をかけるより、まずは結果をオープンにし、対話のテーブルに乗せることが、課題解決の第一歩となります。

ステップ3:小さな改善アクションを習慣化する「大きな施策より、小さな一歩を」

目的に沿ったパルスサーベイの設計(導入)、パルスサーベイの結果を基にした課題のヒアリングが終わったら、次のステップはその課題解決に向けたアクションを実行しましょう

当たり前のことだと思われるかもしれませんが、実際にパルスサーベイの導入や運用をして、この改善アクションまで実施されない企業様はかなり多いです。結果、従業員からの信頼喪失につながってしまいます。

サーベイで見つかった課題に対し、いきなり大規模な研修や制度改革を企画する必要はありません。

むしろ、「朝会のやり方を少し変えてみる」「感謝を伝える機会を設ける」といった、現場ですぐに実行できる小さな改善アクションを、一つでも多く生み出すことの方が重要です。

小さな成功体験を積み重ねることが、組織の「改善体力」を養い、主体的な文化を育んでいきます。

パルスサーベイ活用のメリット

運用方法を間違えなければ、パルスサーベイは組織にとって強力な武器となります。

従業員のコンディションをリアルタイムで把握できる

年に1度の大規模なサーベイでは、すでに手遅れな問題しか見えてきません。

パルスサーベイは、従業員一人ひとりが抱えるストレスや業務負荷、人間関係の悩みといった「声なき声」をタイムリーに察知するのに役立ちます。

例えば、「新しいプロジェクトの負荷が高まっている」「チーム内の心理的安全性が低下している」といった具体的な変化を早期に捉えることが可能です。

これにより、問題が深刻化する前に1on1で対話の機会を設けたり、一時的に業務分担を見直したりと、迅速かつ的確な手を打つことができます。

離職の兆候を早期に発見できる

エンゲージメントの継続的な低下は、離職の重要な先行指標(アラート)です。特に成長企業において、キーパーソンの離職は事業に致命的なダメージを与えかねません。

「最近Aさんのスコアが下がり続けているな」といった個々の推移を追うことで、これまで見過ごしていたかもしれない変化のサインに気づくことができます。

そのサインを基に「何か困っていることはないか?」と対話を持ちかけることで、最悪の事態を未然に防ぐための個別ケアが可能になります。明確な不満が言語化される前に対処することが、優秀な人材を繋ぎ止める上で極めて重要です。

施策の効果をスピーディーに測定できる

新しい人事制度の導入、マネジメント研修の実施、福利厚生の拡充など、時間とコストをかけて実行した施策が、本当に現場にポジティブな影響を与えているか。その効果をリアルタイムで測定できるのも大きなメリットです。

もしスコアに良い変化が見られなければ、施策の何が問題だったのかをすぐに検証し、改善のアクションに繋げられます。

勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいて組織施策のPDCAサイクルを高速で回していく。これにより、投資対効果の高い、本当に意味のある打ち手を継続的に実行できるようになります。

パルスサーベイに関するよくある質問

Q. パルスサーベイの適切な頻度は?

A. 組織の状況や目的によりますが、一般的には「月1回」から始める企業が多いです。

まずは無理のない範囲で開始し、運用が定着してきたら「2週間に1回」など、頻度を調整していくのが良いでしょう。

重要なのは、頻度よりも「結果を受けて必ず対話し、アクションに繋げる」というサイクルを回しきることです。

Q. どんな質問項目を設定すればいい?

A. 厚生労働省の推奨項目などを参考にしつつ、必ず「自社が目指す組織像(カルチャー)」に合わせた独自の質問を加えることが重要です。

「eNPS(従業員推奨度)」や「仕事への熱意」「人間関係」「健康状態」に関する質問は、基本的な項目として押さえておくと良いでしょう。

Q. 無料のツールでも大丈夫?

A. Googleフォームなどの無料ツールでも、パルスサーベイを実施することは可能です。

ただし、集計や分析に手間がかかる、匿名性が担保しにくいといったデメリットもあります。

まずはスモールスタートで試してみて、本格的に運用する段階で、分析機能や匿名性に配慮した専用ツールの導入を検討するのがおすすめです。

川﨑 俊介
記事を書いた人
川﨑 俊介

新卒で当時6期目(60~70名規模)の株式会社ジーニーへ入社。入社後3年間でリーダー、マネ―ジャー、部長とマネジメント経験を積み、入社後4年目で事業責任者兼執行役員に就任。組織も300名を超え、グロース上場を経験。 その後海外事業など含む複数事業の責任者、常務執行役員を経て、2022年に取締役に就任。経営企画や人事などコーポレート領域も管掌。組織規模としても1000名を突破。 2024年4月に独立し、個人で人事・経営コンサル業も成長企業に対して実施しつつ、同年12月にマネディク株式会社CEO/アクシス株式会社取締役COOにも就任。

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