ジョブクラフティングとは?3つの型と効果を出す実践法
ジョブクラフティングとは何かを、3つの種類と具体例からわかりやすく解説します。
やり方や厚生労働省も注目する効果に加え、多くの企業がつまずく「個人任せ」の落とし穴と、組織で機能させる実践法まで、300社以上を支援してきた組織開発の視点で掘り下げます。
ジョブクラフティングとは
ジョブクラフティングとは、従業員が自分の仕事の範囲や進め方、意味の捉え方を主体的に変え、やらされ仕事をやりがいのある仕事へと作り変えていく取り組みです。
近年は人材育成やエンゲージメント向上の文脈で語られる機会が一気に増えました。
ただ、この概念を「社員が自分でやりがいを見つける活動」とだけ理解してしまうと、施策はほぼ機能しません。
重要なのは、個人の工夫を事業成長につなげる組織の設計です。まずは言葉の意味と背景から整理します。
ジョブクラフティングの意味と提唱の背景
ジョブクラフティングは、2001年にイェール大学のエイミー・レズネスキーとミシガン大学のジェーン・ダットンが提唱した概念です。
同じ職務でも、人によって働きがいや成果に差が出るのはなぜか。
その答えとして、与えられた仕事を受け身でこなすのではなく、働く人が自ら仕事を作り変えている実態に着目しました。
象徴的なのが、清掃の仕事を単なる掃除と捉えるか、患者の回復を支える仕事と捉えるかで、当事者の働きがいも振る舞いも変わるという病院清掃員の研究です。
仕事の中身そのものは変わっていません。変わったのは、本人の関わり方と解釈です。
この差にこそ、組織が手をつけるべき余地があります。
ジョブデザインとの違い
ジョブクラフティングと混同されやすいのが、ジョブデザインです。両者の違いは、仕事を設計する主体にあります。
ジョブデザインは、組織や管理者が職務内容や役割を設計し、上から割り当てる考え方です。一方のジョブクラフティングは、働く本人が起点となって仕事を調整します。
観点 | ジョブクラフティング | ジョブデザイン |
設計の主体 | 働く本人 | 組織・管理者 |
方向 | ボトムアップ | トップダウン |
変化への強さ | 高い。現場が随時更新する | 低い。実態と乖離しやすい |
トップダウンで決めた役割は、事業や戦略がめまぐるしく変わる環境では、すぐに実態と合わなくなります。
だからこそ、現場が自ら役割を更新し続けるジョブクラフティングが補完的に必要になります。
両者は対立する概念ではなく、組織が枠組みを用意し、その中で個人が主体的に動くという組み合わせで考えるべきものです。
指示待ち体質から抜け出せない組織ほど、この発想が効いてきます。
なぜ今、ジョブクラフティングが注目されるのか
ジョブクラフティングが急速に注目される背景には、働き方と人材育成をめぐる構造的な変化があります。
1つは、VUCAと呼ばれる先の読めない事業環境です。
正解を上が示し、現場が従うだけのトップダウン型では、変化のスピードに追いつけなくなりました。
もう1つは、働きがいへの関心の高まりです。
厚生労働省は令和元年版の労働経済の分析で、働きがいを示すワーク・エンゲイジメントに着目し、その向上が個人と企業の双方に好影響をもたらすと整理しています。
ジョブクラフティングは、このワーク・エンゲイジメントを高める具体的な手立てとして位置づけられます。
若手の離職に悩む企業も多く、その背景や対策はなぜ若手の離職は止まらないのかでも解説しています。
ジョブクラフティングの3つの種類
ジョブクラフティングは、働きかける対象によって3つに整理されます。
- 作業クラフティング:仕事の範囲ややり方を変える
- 人間関係クラフティング:関わる相手や関わり方を変える
- 認知クラフティング:仕事の意味の捉え方を変える
提唱者のレズネスキーらが示したこの分類は、自社で何から着手できるかを考える出発点になります。
3つは独立した選択肢ではなく、組み合わせて使うものだと捉えてください。
作業クラフティング
作業クラフティングとは、担当する業務の範囲ややり方を、自分の判断で工夫することです。
3つの中で最も着手しやすく、行動の変化が目に見えやすい型です。
具体例を挙げます。営業担当が、商談後のお礼メールに顧客ごとの示唆を一言添えるようにする。
事務担当が、定型のチェック作業に自作のリストを取り入れ、ミスの起きやすい工程を先回りで潰す。
いずれも、与えられた仕事の枠を少し広げたり、手順を組み替えたりする小さな調整です。
ここで意識したいのは、工夫を「頑張る」という曖昧な言葉で終わらせないことです。
何を、どの場面で、どう変えるのか。誰が見ても分かる行動の単位まで具体化すると、本人の納得感も周囲への広がりも変わってきます。
人間関係クラフティング
人間関係クラフティングとは、仕事で関わる相手や、その関わり方を主体的に変える工夫です。
たとえば、これまで接点の薄かった他部署の担当者に自分から相談を持ちかける。
後輩の育成役を引き受け、教えることを通じて自分の理解も深める。
逆に、消耗するだけのやり取りは頻度や形式を見直す。
仕事は1人で完結しません。誰と、どう関わるかを設計し直すだけで、得られる情報も成長機会も変わります。
特に成長企業では、部署間に落ちたボールを誰も拾わない状態が成長の足かせになりがちです。
自分の担当を超えて関わりに行く動きは、人間関係クラフティングの実践であり、組織の連携を強くする一手でもあります。
認知クラフティング
認知クラフティングとは、自分の仕事が持つ意味や目的の捉え方を変えることです。先ほどの病院清掃員の例がこれにあたります。
ディズニーのテーマパークで、清掃担当が自らをゲストの体験を作るキャストと捉えて主体的に振る舞う姿は、認知クラフティングの分かりやすい事例としてよく挙げられます。
同じ業務でも、その仕事が誰の何に貢献しているかを捉え直すと、取り組む姿勢が変わります。
ただし、後ほど詳しく触れますが、認知クラフティングは扱い方を間違えると最も空回りしやすい型でもあります。
意味づけを変えようと呼びかけるだけでは、人の捉え方はそう簡単には変わりません。
ジョブクラフティングで期待できる効果
ジョブクラフティングが組織にもたらす効果は、働きがいの向上、生産性の向上、主体性の醸成による離職防止の3つに整理できます。
いずれも、指示待ち人材の自走を促したい企業にとって直接的な意味を持ちます。順に見ていきます。
ワーク・エンゲイジメントと働きがいの向上
最も中心的な効果が、ワーク・エンゲイジメントの向上です。
ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に対する活力や熱意、没頭を示す心理状態を指します。
自ら仕事を作り変えた経験は、やらされ感を当事者意識へと変えます。
厚生労働省も令和元年版の労働経済の分析で、ワーク・エンゲイジメントの高さが労働生産性や定着と関連することを示しています。
働きがいは、情緒的なテーマではなく、事業成果と結びつく経営指標として捉えるべきものです。
組織全体で働きがいを高める打ち手は組織効力感の高め方でも整理しています。
生産性とパフォーマンスの向上
ジョブクラフティングは、生産性とパフォーマンスの向上にもつながります。
自分の業務を主体的に見直す人は、無駄な工程や非効率な手順に自ら気づき、改善に動くからです。
上から効率化を号令しても、現場が自分事として捉えなければ形だけで終わります。
一方、現場が自らボトルネックを特定し、やり方を組み替えるようになると、改善は持続します。
マネジメントが細かく指示しなくても回り始める。この状態こそ、生産性を中長期で伸ばす土台になります。
主体性の醸成と離職防止
3つ目の効果が、主体性の醸成とそれに伴う離職防止です。
若手の離職理由として、成長実感の乏しさや、仕事を自分で動かせない閉塞感は繰り返し挙げられます。
ジョブクラフティングを通じて、自分の裁量で仕事を良くした手応えを得られると、この閉塞感は和らぎます。
与えられた役割をこなすだけの状態から、自ら仕事を作る状態へ。
この変化が、定着と自律型人材の育成を同時に進めます。
ジョブクラフティングのやり方と組織の役割
ジョブクラフティングのやり方は、個人が踏む手順と、それを支える組織の関与の両輪で考える必要があります。
多くの解説は個人の手順に偏りますが、現場任せにした施策はまず根づきません。
個人の進め方を押さえた上で、組織が何をすべきかまで踏み込みます。
個人が取り組む4つのステップ
個人がジョブクラフティングを進める手順は、大きく4つのステップに分けられます。
- 業務の棚卸し:担う仕事と関わる相手をすべて書き出し、全体像を可視化する
- 自己理解:自分が何に意欲を感じ、どんな強みを持つかを言語化する
- 工夫の実践:作業・人間関係・認知の3つの型から変えられる点を選び、実際に動かす
- 振り返り:一定期間を経て、工夫が成果や手応えにどうつながったかを検証する
この循環を1回で終わらせず、回し続けることが定着の条件になります。
マネージャーが担う「翻訳」と行動の具体化
ジョブクラフティングを組織に根づかせる鍵を握るのは、現場のマネージャーです。
経営が掲げる方針を、現場が実行できる具体的な行動へ翻訳する役割を担うからです。
主体的に仕事を作り変えようと号令をかけるだけでは、現場は動きません。
マネージャーがやるべきは、抽象的な掛け声を観測可能な行動に落とすことです。
たとえば、週に1つは担当業務の改善案を持ち寄る場を設ける。
1on1で、本人が変えたいと感じている業務を一緒に特定し、最初の一歩を決める。
ここで形容詞や副詞に頼った曖昧な指示を避け、誰が何をするかまで具体化できるかが分かれ目です。
マネディクの研修でも、頑張るや徹底するといった言葉を禁じ、すべてを観測可能な行動に変換することを重視しています。
研修を行動変容につなげる設計は研修で行動変容を促すにはでも詳しく解説しています。
効果を測定する方法
ジョブクラフティングの効果測定は、満足度アンケートだけで終わらせず、業績に寄与する行動が増えたかで捉えるべきです。
ROIが分からないという声は多いものの、その多くは測り方の設計が抜けているからです。
手順はシンプルです。まず、自社で成果を出している人材に共通する行動を洗い出します。
次に、その行動を取る人が組織内でどれだけ増えたかを追います。
主観的な満足度だけでなく、改善提案の件数や部署を越えて動いた回数といった行動の変化を見ます。
観測可能な行動を定義して育成に生かす考え方は管理職向けスキルマップの活用法も参考になります。
効果測定を外部に丸投げせず、自社が主体で設計する。それが施策を形だけで終わらせない条件です。
効果測定の設計は、ジョブクラフティングを仕組みに落とす作業そのものです。
以下のチェックシートでは、育成が属人化する原因と、行動を具体化して定着させる手順を書き込み式で確認できます。
ジョブクラフティングで陥りやすい3つの落とし穴
ジョブクラフティングがうまくいかない企業には、共通する3つの落とし穴があります。
認知の捉え直しだけで終わらせること、強みを活かすを都合よく解釈すること、そして個人の自助努力に丸投げすることです。
いずれも、概念を表面的になぞった結果として起こります。1つずつ、回避策とあわせて解説します。
認知の捉え直しだけで終わらせる
最も多い失敗が、認知クラフティングだけに頼ることです。
仕事の意味を前向きに捉え直そうという呼びかけは耳ざわりが良く、研修でも扱いやすいテーマです。
しかし、捉え方を変えようと念じるだけで、人の意識はそう簡単には変わりません。
やりがいやモチベーションは、行動を起こし、小さな成果を得た結果として後から生まれます。順序が逆なのです。
だからこそ、最初に着手すべきは作業クラフティングです。手順や範囲を実際に変え、うまくいった経験を積む。
その手応えが、認知の変化を自然に引き寄せます。
意味づけから入るのではなく、行動から入る。この順序を外さないことが肝心です。
「強みを活かす」を都合よく解釈する
2つ目の落とし穴は、ジョブクラフティングを自分の強みや好きなことだけをやる活動と解釈してしまうことです。
強みを生かすこと自体は正しいものの、これを拡大解釈すると、苦手な業務を避ける口実になりかねません。
ビジネスでは、構造的に考える力やタスク管理、コミュニケーションなど、苦手だからやらないでは済まないスキルがあります。
これらを弱みとして放置したまま得意分野に閉じこもれば、本人の成長も事業の成果も頭打ちになります。
ジョブクラフティングは、自分が楽になるための仕組みではありません。
事業に貢献する成果を起点に、その実現のために仕事を作り変える取り組みです。この前提を外すと、組織は確実に弱くなります。
個人の自助努力に丸投げする
3つ目は、ジョブクラフティングを個人の心がけとして丸投げしてしまうことです。これが、最も根深い落とし穴です。
現場任せにすると、もともと主体性の高い一部の人だけが成果を出し、工夫がその人に依存する属人化が進みます。
組織全体の底上げにはつながりません。
ジョブ型雇用や心理的安全性と同じく、ジョブクラフティングも流行り言葉として無批判に取り入れるだけでは、組織を静かに弱らせます。
大切なのは、この取り組みが事業を伸ばすかという一点で評価し、組織として仕組みに落とすことです。
誰がやっても一定の成果が出る状態を作って初めて、施策は資産になります。
属人化を防ぎ、仕組みで成果を出す考え方はマネジメントの仕組み化でも解説しています。
指示待ちの組織を自走する組織へ変えるには、個人の意識ではなく仕組みの設計が起点になります。具体的な進め方は以下の記事もご覧ください。

まとめ
ジョブクラフティングとは、従業員が仕事の範囲や進め方、意味の捉え方を主体的に作り変え、働きがいと成果を高めていく取り組みです。
作業・人間関係・認知の3つの型があり、働きがいの向上、生産性の向上、主体性の醸成による定着といった効果が期待できます。
ただし、認知の捉え直しだけで終わらせる、強みを都合よく解釈する、個人に丸投げするという落とし穴にはまると、施策は形だけで終わります。
成否を分けるのは、行動から入る順序と、それを支える組織の仕組みです。
やりがいは個人が探すものではなく、組織が行動を引き出した結果として生まれます。
ここまで見てきた通り、ジョブクラフティングの成否は組織の仕組みづくりで決まります。
自社の育成を仕組み化する具体的な手順は、人材育成の仕組み化チェックシートで確認できます。
ジョブクラフティングに関するよくある質問
ジョブクラフティングの具体例を教えてください
営業担当がお礼メールに顧客ごとの示唆を添える、事務担当が独自のチェックリストでミスを防ぐといった工夫が作業クラフティングの例です。
他部署へ自ら相談を持ちかける関わり方の見直しや、仕事の意味の捉え直しも具体例にあたります。
ジョブクラフティング研修やワークショップとは何ですか
自分の業務を棚卸しし、3つの型に沿って改善点を見つけ、実践計画に落とす体験型のプログラムを指します。
座学で概念を学ぶだけでなく、自社の業務に当てはめて行動まで設計することが、効果を出す分かれ目になります。
厚生労働省はジョブクラフティングをどう扱っていますか
厚生労働省は令和元年版の労働経済の分析で、働きがいを示すワーク・エンゲイジメントに着目しています。
ジョブクラフティングは、このワーク・エンゲイジメントを高める手立ての1つとして関連づけて語られます。
ジョブデザインやジョブ型雇用との違いは何ですか
ジョブデザインは組織が役割を設計するのに対し、ジョブクラフティングは働く本人が仕事を調整します。
ジョブ型雇用は職務に値段をつける雇用の枠組みであり、仕事の作り変えを指すジョブクラフティングとは観点が異なります。
ジョブクラフティングを学べる本はありますか
入門書としては、高尾義明氏の『ジョブ・クラフティングで始めよう 働きがい改革の理論と実践』が知られています。
理論の背景から実践への落とし込みまで整理されており、社内で共通理解を作る土台として活用できます。
在宅勤務でもジョブクラフティングはできますか
可能です。在宅勤務では、業務の進め方を自分で組み立てる余地がむしろ広がります。
チャットでの情報共有を工夫したり、オンラインで意図的に他部署とつながったりする取り組みが有効に機能します。
