リテンションとは?人事の意味・施策・上げ方を組織開発のプロが解説

リテンションとは?人事の意味・施策・上げ方を組織開発のプロが解説
目次

採用難・離職率の上昇を背景に、「リテンション施策を強化せよ」という指示が経営層から降りてくる人事担当者が増えています。

ただ、サーベイを回しても福利厚生を整えても、優秀層から順に辞めていく現象は止まらない企業が少なくありません。

リテンションは人材の定着を促す施策の総称です。しかし、運用そのものが目的化した瞬間に組織は機能不全に陥ります

マネディクが300社以上の成長企業を支援してきた中でも、「全員を引き留めること」を目的にした瞬間に、合わない層が居座り合う人材が辞めていく逆転現象に陥った組織を数多く見てきました。

本記事ではリテンションの人事領域での定義、注目される構造的背景、施策の種類、そして実質的に機能する4つの打ち手を、組織開発の専門家の視点から解説します。

リテンションとは?人事領域における定義

リテンションは英語の「retention(維持・保持)」を語源とし、人事領域では「自社に必要な人材の流出を防ぐための施策全般」を指します。

ビジネス用語としては顧客リテンションと従業員リテンションの2つの文脈で使われるため、まずは定義と読み方を整理します。

リテンションの意味と読み方(人事領域での定義)

リテンション(読み方:retention)は、人事領域では「自社にとって必要な人材を企業内に定着させ、流出を防止する施策の総称」を意味します。

由来は英語のretentionで、「維持」「保持」「定着」を表します。同義語として「人材リテンション」「従業員リテンション」「リテンションマネジメント」が使われますが、いずれもほぼ同じ意味です。

近年は人的資本経営の流れで、上場企業の有価証券報告書に従業員リテンションの状況を開示する企業が増えています。

「自社にとって必要な人材」という限定がついていることが重要です。リテンションは全従業員の引き留め策ではなく、事業成長に貢献する人材を選別して定着させる戦略であると捉える必要があります。

この前提を取り違えると、後述する「合わない人材まで引き留めるリテンションの罠」に陥ります。

マーケティング領域のリテンションとの違い

リテンションには、マーケティング領域での意味も存在します。マーケティング文脈では「既存顧客との継続的な関係維持」を指し、顧客リテンション・リテンションマーケティングと呼ばれます。

新規顧客獲得(アクイジション)に対する概念として、既存顧客の離反防止や再購入促進、LTV(顧客生涯価値)の最大化を目的とする活動です。

領域

対象

目的

顧客リテンション(マーケティング)

既存顧客

離反防止・LTV最大化

従業員リテンション(人事)

自社の必要人材

流出防止・定着促進

両者は対象が異なるだけで、「獲得(アクイジション)したものを維持する」という構造は共通しています。

本記事ではマネディクの専門領域である人事領域に絞ってリテンションを解説します。

リテンション率の計算方法と目安

リテンション率は、ある期間に在籍していた従業員のうち、期末まで在籍した人の割合を示す指標です。計算式は以下の通りです。

リテンション率 = 期末在籍者数 ÷ 期首在籍者数 × 100(%)

たとえば期首100名が在籍し、1年後に85名が残っていた場合、リテンション率は85%となります。

業界全体では、厚生労働省の令和5年雇用動向調査によると、常用労働者の離職率は15.4%です。つまりリテンション率の全国平均は約85%が1つの目安となります。

業界別では、宿泊業・飲食サービス業や生活関連サービス業などサービス系産業の離職率が相対的に高い水準にあります。

一方で製造業や金融・保険業など、労働装備の重い産業ほど離職率は低い傾向にあります(出典:厚生労働省 令和5年雇用動向調査結果の概要)。

ただ、業界平均との比較だけで自社の状態を判断するのは早計です。「誰が辞めて、誰が残っているか」の質的な分析を伴わないリテンション率は、組織の実態を映していないことが多くあります。

日本企業でリテンションが注目される構造的背景

リテンションが経営課題として浮上してきた背景には、人材市場の構造的変化があります。

採用難と人的資本経営の開示義務化、そして「リテンション施策が目的化した組織で何が起こるか」まで踏み込んで解説します。

人材市場の流動化と採用コスト増

リテンションの重要性が増した最大の要因は、採用コストの上昇です。

リクルートの就職みらい研究所「就職白書」の調査では、新卒採用1人あたりのコストは平均90万円台、中途採用1人あたりは100万円超とされており、年々上昇傾向にあります。

少子高齢化により労働人口が減り続け、転職市場の活発化で人材の流動性も上がっています。手放した1人を補充するために、これだけのコストが追加で必要になる構造です。

「採用を強化すれば人材は補充できる」という前提が、もはや経済合理性を持たなくなっています。既存人材1人を引き留めるレバレッジが、新規採用1人を獲得するレバレッジを大きく上回るフェーズに入っています。

この構造変化が、リテンションを経営アジェンダに引き上げた最大の理由です。

「人的資本経営」と開示義務

2023年3月期から、上場企業に対して人的資本情報の有価証券報告書での開示が義務化されました。開示項目には離職率・定着率・人材投資額などが含まれます。

これにより、リテンションは単なる人事マターから「投資家に説明責任を負う経営アジェンダ」へと位置づけが変わりました。

ESG投資の文脈でも、従業員エンゲージメントやリテンション率は重要な評価指標とみなされています。

ただ、開示義務に対応するだけのリテンション施策は「やってる感」を作るだけに終わります。投資家向けレポートに載せる数字を作る目的で施策を打っても、現場の組織体質は変わらないからです。

人的資本経営の文脈でリテンションを位置づける場合、「投資家への説明資料」ではなく「事業成長に直結する人材ポートフォリオ最適化」として再定義することが先決です。

「リテンションが目的化」したときに組織で起きること

ここからが本題です。リテンション施策で最も警戒すべきは、施策運用そのものが目的化することです。

得てして起こるのは、「人事評価にリテンション率を組み込む」「マネージャーの評価指標にチーム離職率を設定する」という運用です。

一見合理的に見えます。ただ、これをやるとマネージャーは「うちのチームから辞めさせるな」というプレッシャーを部下にかけ始めます。

部下が辞意を漏らせば必死で慰留し、不満が出ても本音を引き出さず、表面的な不満解消で離職を止めにかかります。

結果として、合わない人材まで引き留めてしまい、合う人材が「あの人がいるなら辞めます」と先に辞めていく逆転現象が起こります。

リテンションは観測指標であり、評価指標ではありません。スコアを評価軸にした瞬間、観測装置として機能しなくなる構造があります。

サーベイで何が起きるかは、パルスサーベイは本当に意味がない?運用のメリット・デメリットでも詳しく解説しています。

リテンションを目的化させずに事業成長へつなげるには、自社の組織状態を構造的に診断するところから始めるのが現実的です。

以下の資料では、事業転換期に陥りがちな組織崩壊の4フェーズを解説し、20項目のセルフチェックで自社の組織健康度を5分で診断できる内容を無料配布しています。

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リテンションマネジメントの種類と代表的な施策

リテンション施策は、報酬の種類によって2つに分類されます。金銭的報酬による施策と、非金銭的報酬による施策です。

両者の使い分けはハーズバーグの二要因理論で整理でき、優先順序を間違えるとリテンションは機能しません。具体的な施策の全体像は、離職防止に効果的な施策8選でも詳しく整理しています。

金銭的報酬による施策(給与・賞与・福利厚生)

金銭的報酬による施策は、給与・賞与・インセンティブ・退職金・福利厚生など、金銭価値で測れる待遇全般を指します。

代表的な施策は以下の通りです。

  • 同業他社水準を上回る給与テーブルの設計
  • 業績連動賞与・ストックオプションの導入
  • 住宅手当・家族手当などの福利厚生
  • 退職金・企業年金制度の充実

これらはハーズバーグの二要因理論でいう「衛生要因」に分類されます。衛生要因は不足すると不満を生みますが、満たされても積極的な動機付けにはなりません。

つまり、給与や福利厚生を業界水準まで上げることは「離職を防ぐ最低条件」であって、「定着を促す決め手」にはならないということです。

リテンション施策を金銭的報酬だけで進めようとする企業が往々にしてありますが、ベンチマーク企業の給与水準に追いついた瞬間、施策の効果は頭打ちになります。次の打ち手は非金銭的報酬に移る必要があります。

非金銭的報酬による施策(成長機会・キャリア・関係性)

非金銭的報酬は、金銭以外の形で従業員に提供される価値を指します。成長機会・キャリア支援・人間関係・働き方の柔軟性・理念への共感などが含まれます。

代表的な施策は以下の通りです。

  • キャリア開発支援(研修、メンター制度、社内公募)
  • 1on1ミーティング・フィードバック面談
  • リモートワーク・フレックスタイムなど柔軟な働き方
  • 社内コミュニケーション活性化(サンクスカード等)
  • 理念・行動指針の浸透
  • 表彰制度・社内アワード

ハーズバーグの二要因理論では、これらは「動機付け要因」に分類されます。動機付け要因が満たされると、従業員は仕事そのものに価値を感じ、定着につながります。

300社の支援実績から見ると、リテンションが安定している企業は、非金銭的報酬の中でも特に「成長機会の提供」と「マネージャーとの関係性」に投資しています。

自走できる組織の作り方は、自走する組織の作り方でも詳しく解説しています。

「金銭」と「非金銭」のどちらを優先すべきか

金銭的報酬と非金銭的報酬のどちらを優先すべきかという議論があります。結論から言うと、順序の問題であって、二者択一の問題ではありません

ハーズバーグ理論を踏まえると、施策の優先順位は以下になります。

  • まず衛生要因(金銭的報酬)が業界水準を下回っていないかを確認する
  • 衛生要因が満たされていれば、動機付け要因(非金銭的報酬)に投資する
  • 衛生要因が不足していれば、まずそこを是正してから動機付け要因に進む

「給与は低いがやりがいで引き留める」という発想は、長期的には機能しません。衛生要因が不足したまま動機付け要因に投資しても、不満の蓄積を埋められないからです。

逆に、衛生要因が満たされているのに動機付け要因に手を打たないと、優秀層から飽きて他社に移ります。両方が必要であり、AND思考で設計するのが基本です。

ただ、ベンチャー・成長企業のリソース制約を踏まえると、衛生要因は「業界水準±10%以内」を目安に最低限ラインを死守し、限られた投資余力は動機付け要因に集中させるのが現実的です。

実質的に機能するリテンション戦略の4つの打ち手

リテンション施策として一般に挙げられるのは、「給与の見直し」「福利厚生の充実」「コミュニケーション活性化」といった抽象的かつ汎用的な施策です。

これらは間違いではありません。ただ、レバレッジが効きません。

マネディクが300社の支援で確認してきた、再現性の高い4つの打ち手を解説します。マネージャーの育成プロセスはマネージャー育成の完全ガイドでステップごとに整理しています。

  • 打ち手1:リテンションを「全員引き留める」から「合う人の比率を上げる」に再定義する
  • 打ち手2:1on1を「定点観測」に転換し、批判者を早期発見する
  • 打ち手3:評価制度を「センスメイキング」で運用する
  • 打ち手4:優秀人材には「社内での新たな挑戦機会」を提供する

打ち手1:リテンションを「全員引き留める」から「合う人の比率を上げる」に再定義する

リテンション施策で最初に取り組むべきは、「誰のリテンションを目指すのか」を解像度高く定義することです。

「全員辞めさせない」を目的にすると、組織は必ず機能不全に陥ります。合わない人材まで引き留めてしまい、合う人材が「あの人がいるなら自分は辞める」と先に去っていくからです。

リテンションは事業成長のための人材ポートフォリオ最適化と位置づける必要があります。

具体的には、自社の事業成長に貢献する人材像を定義します。「こういう価値観・行動を取れる人は事業を伸ばす。こういう人は事業を停滞させる」という具合に、解像度高く言語化します。

その上で、合う人の比率を上げる施策と、合わない人が自己変革または離職する仕組みを並行して設計します。前者は研修・登用・抜擢、後者は評価制度・配置転換・退職勧奨です。

ただ、ベンチャー企業ではリソース制約から「合わない人を全員退場させる」は現実的ではありません。

組織を「キーマン」と「非キーマン」に分け、キーマンには強度高くリテンション施策を投じ、非キーマンには一定水準で要求するという二段構えが定石です。

事業成長と逆行する「全員のエンゲージメント向上」を盲信せず、合う人の比率を上げることに焦点を絞るのが第一歩です。

優秀人材が辞めていく構造は、以下の記事でも整理しています。


なぜ、ベンチャーでは優秀な人材から辞めていくのか?ベンチャー特有の原因と対策を視点別で解説

なぜ、成長ベンチャー企業では優秀な人材が去ってしまうのか?本記事では、成長ベンチャー企業で優秀な人材が退職する根本的な理由を、経営者・人事・管理職の視点から徹底解説します。

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打ち手2:1on1を「定点観測」に転換し、批判者を早期発見する

リテンション改善で最もレバレッジが効くのは、1on1の目的の再設計です。

世間では1on1に「部下の成長支援」「目標達成のサポート」「キャリア相談」「人事評価のフィードバック」など、あらゆる目的が詰め込まれています。

結果、アジェンダが多すぎてどれも薄くなるか、進捗確認と説教の場に堕落します。これでは離職の兆候を察知できません。

リテンションの観点で1on1を再設計するなら、目的は1つに絞ります。「メンバーの想定外の離職を防ぐこと」、つまり変化の兆候を察知する定点観測です。

具体的には、1on1の場で毎回同じ質問を投げかけます。「最近、業務でストレスを感じる場面はありますか」「直近2週間で一番モヤモヤしたことは何ですか」といった、コンディションを定点で観測する設問です。

マネージャーは聞き役に徹し、表情・声のトーン・言葉選びの変化を観察します。「いつもと違う」という違和感を覚えたら、そこで初めて踏み込みます。

1on1を定点観測の場に再設計するだけで、批判者の早期発見率は劇的に上がります。サーベイで問題が顕在化する前に手を打てるため、離職の急増を未然に防げます。

1on1がアジェンダ詰め込みで形骸化する原因は、以下の記事で立場別に整理しています。


1on1の形骸化はなぜ起こる?原因と対策を立場別に徹底解説

1on1が形骸化する根本原因と、すぐに実践できる具体的な対策を解説します。現場のマネージャー、制度に悩む人事、組織課題を抱える経営者、それぞれの立場で「何をすべきか」が明確に分かります。

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打ち手3:評価制度を「センスメイキング」で運用する

リテンションが安定しない組織の多くは、評価の納得感が薄い構造を抱えています。

「評価制度を完璧に作り込めば不満は消える」と考えるのは、現場の実態を無視した発想です。事業ピボットが起こりやすい成長企業では、半期に1回設定した目標が3ヶ月で陳腐化します。

それにもかかわらず当初目標通りに評価しても、「途中からやることが変わったのに当初目標で評価するのは不当だ」という不満が必ず生まれます。これがリテンションを蝕みます。

ここで効くのがセンスメイキング、つまり評価の腹落ち感を醸成するプロセスです。

評価制度はあくまで目安と割り切ります。実際の評価では「制度上は厳密にはこの評価ですが、こういう貢献もあったのでこのロジックで評価しました」と解釈を加え、本人とマネージャーが対話する場を作ります。

マネージャー間のキャリブレーション(評価擦り合わせ)も行い、全社としての方向性は揃えます。

評価面談を「結果通告の場」から「腹落ちを作る対話の場」に変えるだけで、批判者となっていた中堅・若手の見え方が変わります。リテンション率は結果として上がります。

納得感のある評価運用の作り方は、納得感のある評価制度とは?作り方の5ステップに詳しい解説があります。

打ち手4:優秀人材には「社内での新たな挑戦機会」を提供する

優秀人材のリテンションは、給与・福利厚生では止められません。優秀な人材ほど、同じ環境で成果を出し続けることに「飽き」を感じやすいからです。

新たな刺激を求めて社外に去ってしまう前に、社内で新たな挑戦の機会を提供することが、優秀層リテンションの本質です。

具体的には、以下のような機会設計が効きます。

  • 新規事業の立ち上げメンバーへの抜擢
  • グループ会社や海外拠点への異動
  • 全社横断プロジェクトのリーダー登用
  • 1〜2階層上のミッションを期間限定で委ねる

「視点を上げる」「視座を高める」という抽象論ではなく、「物理的に新しい役割や領域に放り込む」という構造的介入が必要です。

300社の支援実績で見ると、優秀層のリテンションが安定している企業は、半期〜年単位でこの「新しい挑戦の機会」をローテーション設計しています。

短期的・自部署視点では「エースを別の場所に動かすのはもったいない」と感じられますが、長期・全社視点では極めて合理的な打ち手です。

優秀層の社外流出を防ぐ最強のリテンション施策が、社内に「飽きさせない仕組み」を作ることになります。

次世代リーダー育成の全体像は、次世代リーダー育成の全ステップで整理しています。

リテンション施策の進め方と陥りやすい落とし穴

リテンション施策を実行に移すには、自社分析→施策設計→効果検証の3ステップを順に進めます。

ただ、各ステップで陥りやすい落とし穴があります。マネディクの支援で観察された注意点と併せて解説します。目標と評価のズレに関する課題は、目標管理の課題と解決策でも詳しく整理しています。

Step1:自社の離職データと「合う人/合わない人」の定義

最初のステップは、自社の離職データの精緻な分析と、リテンション対象となる人材像の定義です。

離職データは、役職別・在籍年数別・部署別・退職理由別にブレイクダウンして分析します。「全体離職率15%」というマクロ数字だけでは打ち手につながりません。

「入社3年目までの離職率が30%」「営業部門で特に管理職層の離職が多い」など、解像度を上げる必要があります。

並行して、「自社の事業成長に貢献する人材像」を定義します。バリューや行動指針があれば、それを参考にします。

ここで陥りやすい落とし穴は、「全員を引き留める前提」で施策設計を始めることです。冒頭で述べた通り、合わない人材まで引き留めてしまうとリテンションは逆機能を起こします。

「キーマン」「優秀層」「定着が望ましい層」を明確に定義し、施策の対象を絞り込むことが先決です。

Step2:マネージャーの行動レベルまで施策を落とし込む

リテンション施策を現場に降ろすとき、「コミュニケーションを徹底する」「信頼関係を構築する」といった抽象的な指示で終わる組織が多くあります。これでは何も変わりません。

マネディクが研修で徹底しているのは「形容詞・副詞を禁止し、すべてを観測可能な行動に変換する」というメソッドです。

たとえば「部下の話をしっかり聴く」という指示は、観測不可能です。

これを「1on1で、部下が話している間はメモを取らず、相槌と要約のみを返す。マネージャーから話す時間は10分以内に収める」のように、誰が見ても判断できる行動レベルまで分解します。

行動レベルまで具体化されていれば、マネージャー自身がやれているかをセルフチェックできます。マネージャー間で実践度の共有もできます。

「頑張ります」「徹底します」では曖昧で、半年後に振り返っても何も変わっていない、というよくある事態を防げます。

行動具体化メソッドの考え方は、スキルマップは意味ない?形骸化する5つの原因と効果的な運用方法でも詳しく取り上げています。

Step3:定量・定性の両面で効果検証する

リテンション施策の効果検証は、定量指標と定性指標の両面で行います。

定量指標の例は以下の通りです。

  • 全体リテンション率(前年比・業界平均比)
  • キーマン・優秀層のリテンション率
  • 役職別・在籍年数別の離職率
  • エンゲージメントサーベイのスコア推移

定性指標の例は以下の通りです。

  • 退職者インタビューでの「辞めた本当の理由」
  • 1on1での違和感シグナルの件数と対応状況
  • マネージャー自身の行動チェックシートの達成率

ここで陥りやすい落とし穴は、定量指標だけで判断することです。リテンション率が上がっていても、それが「合わない人が居座っているだけ」だと、組織の事業成長はむしろ停滞します。

「誰が残り、誰が辞めたか」という質的分析を伴わないリテンション率の改善は、組織の実態を映していません

もしサーベイを回しているのに現場が変わらない、リテンション施策を打っているが優秀層から辞めていくと感じているなら、組織状態そのものを構造的に診断する段階に来ています。

20項目のセルフチェックで自社の組織健康度を確認できる資料を、以下から無料配布しています。

まとめ:リテンションを「事業成長」につなげるために

ここまで、リテンションの定義・注目される背景・施策の種類・実質的に上げる4つの打ち手・進め方と落とし穴を解説してきました。

要点を整理します。

  • リテンションは「自社にとって必要な人材」の流出を防ぐ施策であり、全員引き留めではない
  • 注目される背景は、採用コスト増・人材市場の流動化・人的資本経営の開示義務化
  • 施策は金銭的報酬(衛生要因)と非金銭的報酬(動機付け要因)の両輪で設計する
  • リテンションを評価指標にした瞬間、観測装置として機能しなくなる
  • 実質的に上げる打ち手は、人材像の再定義、1on1の定点観測化、評価のセンスメイキング、優秀層への挑戦機会提供の4点

マネディクの見解として強調したいのは、リテンションは事業成長を目的とする組織運営の観測指標であり、率を上げること自体は目的ではないということです。

リテンション率の背景にある「誰が残り、誰が辞めているか」を読み解き、合う人の比率を上げる施策をマネージャーの日常行動から逆算して設計することが、事業成長とリテンションを両立させる正攻法です。

サーベイを回しているのに現場が変わらないと感じているなら、サーベイ運用そのものではなく、その結果を受けてマネージャーが何を変えるかを再設計する時期に来ています。

本記事で解説した4つの打ち手の前段として、まず自社の組織健康度を把握することが先決です。20項目のセルフチェックで、組織崩壊の4フェーズに当てはまる兆候を5分で診断できます。


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リテンションに関するよくある質問

リテンションの読み方は?

リテンションは「retention」と書き、「リテンション」と読みます。日本語訳は「維持」「保持」「定着」で、人事領域では「人材定着」と訳されることが一般的とされています。

リテンション率の計算式は?

リテンション率 = 期末在籍者数 ÷ 期首在籍者数 × 100(%)です。期首100名で1年後85名が残っていれば、リテンション率は85%です。離職率の裏側の指標と捉えられます。

リテンションマーケティングと従業員リテンションの違いは?

対象が異なります。リテンションマーケティングは「既存顧客」を対象に離反防止・LTV最大化を狙う活動です。従業員リテンションは「自社の必要人材」を対象に流出防止・定着促進を狙う人事施策です。

リテンション施策はまず何から始めるべきですか?

最初の一歩は、自社の離職データを役職別・在籍年数別・部署別にブレイクダウンする現状分析です。並行して「定着が望ましい人材像」を解像度高く定義し、施策の対象を絞り込みます。

リテンション率を上げる最も効果的な方法は?

最もレバレッジが効くのは、マネージャーの1on1を「定点観測」に再設計することです。批判者の早期発見が可能になり、離職の急増を未然に防げます。給与改定や福利厚生の充実より優先度が高い施策です。

リテンション営業との違いは?

リテンション営業は、既存顧客の継続購入や契約更新を促す営業活動を指します。本記事で解説した人事領域のリテンションとは対象が異なります。マーケティング領域の顧客リテンションとほぼ同義です。

リテンションマネジメントとタレントマネジメントの違いは?

タレントマネジメントは「人材の獲得・育成・配置・評価・定着」までを含む包括的な人事戦略です。リテンションマネジメントはその中の「定着」フェーズに特化した施策群と位置づけられます。

全員のリテンションを目指すべきですか?

目指すべきではありません。マネディクの見解では、リテンション施策は「自社の事業成長に貢献する人材」の定着を促す戦略です。合わない人材まで引き留めると、合う人材が先に辞める逆転現象が起きます。

川﨑 俊介
記事を書いた人
川﨑 俊介

新卒で当時6期目(60~70名規模)の株式会社ジーニーへ入社。入社後3年間でリーダー、マネ―ジャー、部長とマネジメント経験を積み、入社後4年目で事業責任者兼執行役員に就任。組織も300名を超え、グロース上場を経験。 その後海外事業など含む複数事業の責任者、常務執行役員を経て、2022年に取締役に就任。経営企画や人事などコーポレート領域も管掌。組織規模としても1000名を突破。 2024年4月に独立し、個人で人事・経営コンサル業も成長企業に対して実施しつつ、同年12月にマネディク株式会社CEO/アクシス株式会社取締役COOにも就任。

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