経営人材とは?要件と「育たない」を変える育成4ステップ
経営人材とは、企業の方向性を決め意思決定を担う人材です。
幹部人材との違いや求められる要件を整理した上で、優秀な管理職が経営人材として機能しない構造的な理由と、行動変容まで導く育成4ステップを解説します。
経営人材とは|企業の意思決定を担う存在
「経営人材を育てたい」という相談は年々増えています。ただ、その定義が社内で曖昧なまま育成施策だけが先行するケースは少なくありません。
まず押さえるべきは、経営人材が何を担う存在なのかという役割の輪郭です。
経営人材の定義|「何を目指すか」を決める役割
経営人材とは、企業全体の方向性や解決すべき課題を中長期で捉え、意思決定し、組織として実行されるまで導く人材を指します。
わかりやすく言えば、何を目指すかを決める役割です。日々の業務改善ではなく、会社がどの市場で何を実現するのかという問いに答える立場にあります。
ここで見落とされがちなのは、経営人材の仕事が正解を出すことではない点です。変化の速い事業環境では、描いた戦略はその時点で証明されていない仮説にすぎません。
だからこそ経営人材には、不確実な状況でも決断し、実行のなかで軌道修正し続ける姿勢が問われます。肩書きではなく、この意思決定の質と覚悟こそが経営人材を定義します。
経営人材と幹部人材・管理職の違い
経営人材と幹部人材は、しばしば同じ意味で使われます。ただ事業を伸ばす観点では、両者の役割は明確に分けて捉えるべきです。
- 経営人材:会社全体の方向性を定義し、どこに資源を集中するかを決める「目標を決める人」
- 幹部人材・管理職:部長や課長として、決まった方針を現場で着実に成果へ変える「目標を実現する人」
この違いを曖昧にすると、育成の打ち手がずれます。実行力に優れた管理職をそのまま昇格させても、方向性を決める力までは自動的に身につきません。
なお、管理職そのものの育成については上級管理職の育成方法でも解説しています。実現する人と決める人では、鍛えるべき能力がそもそも異なります。
なぜ今、経営人材の育成が求められるのか
経営人材の育成が経営課題に浮上した背景には、外部からの明確な要請があります。
東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードは、取締役会に対し、最高経営責任者などの後継者計画への主体的な関与を求めています。
後継者候補の育成を、十分な時間と資源をかけて計画的に進めるよう監督すべきだとされています。参考:コーポレートガバナンス・コード(2021年6月、東京証券取引所)。
後継者育成は、もはや努力目標ではなく、上場企業に求められる責務になりました。
加えて、経済産業省が2020年に公表した人材版伊藤レポートは、経営戦略と人材戦略の連動を打ち出しました。
参考:人材版伊藤レポート(2020年、経済産業省)。経営人材をどう生み出すかは、人的資本経営の中核テーマに位置づけられています。
事業環境の不確実性が増し、過去の延長線上に正解がなくなったことも背景にあります。決められた業務をこなす人材だけでは、変化に対応できないためです。
経営人材は、次世代リーダーの育成と地続きのテーマでもあります。育成の全体像は次世代リーダー育成の全ステップもあわせて参考になります。
経営人材に求められる5つの要件
経営人材の要件は「リーダーシップ」のような抽象語で語られがちです。ただ、それでは育成にも選抜にも使えません。観測できる行動のレベルまで分解して捉えることが出発点になります。
構想力|不確実な環境で進む方向を描く
経営人材にまず求められるのは、情報が出揃わない状況でも進む方向を描く構想力です。
構想力は、視座の高さと言い換えられます。視座とは曖昧な精神論ではなく、2つの拡張で説明できます。
短期だけでなく長期で考える時間軸の拡張と、自部署だけでなく全社で考える視点の拡張です。
たとえば自部署のエースを、崩壊寸前の他部署の立て直しへ異動させられるか。短期かつ自部署の視点では、答えはノーになります。
しかし時間軸と視点を広げると、属人化からの脱却や全社リターンの最大化という合理性が見えてきます。目の前の損得を超えて、長期と全社で物事を捉え直せるかが構想力の中身です。
決断力|正解のない状況で意思決定する
2つ目は、正解が見えない状況でも決め切る決断力です。確実な根拠が揃うのを待っていては、変化の速い市場で勝機を逃します。
ここで参考になるのが、行動経済学者ダニエル・カーネマンの整理です。著書「ファスト&スロー」では、思考を直感的なシステム1と、論理的なシステム2に分けています。
不確実性が高い局面では、情報を集めて論理だけで詰めようとすると、かえって判断を誤ることがあります。
優れた経営人材は、数多くの失敗と成功を通じて引き出しを蓄積し、類似の事象を直感で素早く判断します。
判断は直感で速く下し、周囲への説明は論理で丁寧に行う。この使い分けが決断の質を支えます。
巻き込み力|信頼と共感で組織を動かす
3つ目は、権限ではなく信頼で人を動かす巻き込み力です。役職で命令するだけでは、不確実な局面で組織は動きません。
その本質は、グロービスが定義するように、格差を乗り越える力にあります。
相手が前提を知らない情報の格差、評価基準がずれる解釈の格差、物事の捉え方が違う価値観の格差です。
優秀な相手ほど、言わなくても分かるはずと考えがちですが、そこに格差はあります。前提と背景をていねいに共有し、納得を作る対話こそが人を動かします。
組織を動かすのは客観的な正解ではなく、主観的な腹落ちです。全員で決めて全員で進む状態を作れるかが問われます。
経営者としての自覚・覚悟(マインドセット)
最後の要件は、スキル以前のマインドセットです。誰よりも事業の成長に当事者意識を持つという覚悟が出発点になります。
300社以上の成長企業を支援してきたなかで見えてきたのは、伸びる組織には例外なくトップの強いコミットがあるという事実です。
トップがコミットしていなければ、どれほど立派な仕組みも形骸化します。この覚悟は、苦しさの引き受け方に表れます。
事業のギャップに心臓が痛むほどもがき、それでも他責にせず前を向く。その姿勢が周囲の信頼を生みます。
スキルは後からでも身につきます。しかし自分が決め、自分が引き受けるという当事者性は、経験を通じてしか育ちません。経営人材の核は、能力よりもまず覚悟にあります。
なぜ「優秀な管理職」は経営人材として育たないのか
経営人材の育成がうまくいかないとき、原因を本人の能力に求めがちです。ただ、現場を数多く見てきた立場からは、問題の多くは能力ではなく構造にあると考えています。
優秀な人ほど経営人材として機能しないことには、明確な理由があります。
「優秀な人材が育たない」という構造的な問題は、以下の記事でも掘り下げています。

成功体験が新しい意思決定を縛る
1つ目の理由は、過去の成功体験が新しい意思決定を縛ることです。既存事業で実績を出した人ほど、その成功パターンに無意識で固執します。
象徴的なのが、著書「良い戦略悪い戦略」で紹介されるインテルの逸話です。メモリ事業の不振に苦しむなか、経営陣はこう自問しました。
新しい経営者が来たら何をするか。答えはメモリ事業からの撤退でした。問われたのは、自分たちがクビになったつもりで、なぜ同じ決断ができないのかという点です。
過去の意思決定への未練や、これまでのやり方への忠誠が、本来必要な転換を阻みます。優秀さがそのまま、変化への抵抗力に転じてしまうのです。
「正解探し」の癖が決断を遅らせる
2つ目は、優秀な人ほど染みついた正解探しの癖です。学歴やリテラシーが高い選抜人材ほど、この傾向は強くなります。
確実な正解を求める姿勢は、答えのある業務では強みになります。しかし経営の現場に、最初から用意された正解はありません。
正解を探し続けると、決めるべき局面でフリーズします。完璧な根拠を求めて熟考するほど、市場からのフィードバックを得る機会を失っていきます。
経営人材に必要なのは、不完全でも早く決め、早く失敗し、そこから学ぶ姿勢です。正解を当てる力ではなく、正解のない状況に耐えて前進する力が問われます。
座学中心の選抜研修が行動に転換しない
3つ目は、育成手段そのものの問題です。座学中心の選抜研修は、知識を与えても行動を変えません。
漠然と経営リテラシーを上げたいという目的で研修を入れても、高い確率で「良い話を聞けた」で終わります。扱うテーマの優先順位が定まっていないためです。
行動が変わらない最大の理由は、研修と現場が切り離されている点にあります。葛藤を伴う実践の場がなければ、知識は使われないまま忘れられます。
経営人材は、知識のインプットだけでは育ちません。次章で見るように、修羅場の経験と、行動を定着させる仕組みが不可欠になります。
経営人材を育成する4ステップ
経営人材の育成は、属人的な抜擢の運任せにすべきではありません。再現性のあるプロセスとして設計することで、組織として継続的に経営人材を生み出せます。ここでは4つのステップに分けて解説します。
- あるべき経営人材像を定義する
- 候補者を選抜する
- 修羅場経験と体験型ワークでインストールする
- 行動を定着させ評価する
ステップ1|あるべき経営人材像を定義する
最初にやるべきは、自社にとっての経営人材像を具体的に定義することです。一般論の要件をそのまま借りても機能しません。
定義の出発点は、経営戦略です。これから会社がどの市場でどう戦うのかによって、必要な経営人材の要件は変わります。
有効なのは、自社で実際に事業を伸ばしてきた経営者や幹部の行動パターンを洗い出すことです。
他責にせず最後までギャップを追う、即レスで意思決定を止めない、キーマン育成に投資を惜しまないなどの行動を言語化します。
そのうえで、これらの行動をより多くの候補者が体現したら業績はどうなるかを考えます。あるべき像を行動レベルで定義できて初めて、育成の対象が定まります。
ステップ2|候補者を選抜する
次に、定義した像に照らして候補者を選抜します。ここで現時点の実績だけで判断すると、選抜を誤ります。
評価すべきは、現時点の実績と、将来の成長可能性の両軸です。とりわけ重視したいのが、失敗から学べるかどうかです。
決まったことをやり切らせてきただけの人材に、方針の決定権まで委ねると組織は崩れます。何に向けて鍛えてきたかが、選抜の分かれ目になります。
選ぶべきは、自分の失敗から学びを引き出せる人材です。施策が失敗したとき、その失敗を責めるのではなく、何を学んだのかを徹底して問う。その問いに答えられる人が、候補になります。
ステップ3|修羅場経験と体験型ワークでインストールする
選抜した候補者には、葛藤を伴う実践の機会を意図的に用意します。経営人材は、安全な座学だけでは育たないためです。
軸になるのは、責任の重い役割を早めに任せるタフアサインメントです。
ある成長企業では、入社2年目の社員を副事業責任者へ抜擢し、事業領域の半分を委ねました。その結果、110%成長がやっとだった事業が2年連続で140%成長を遂げています。
ここで決定的に重要なのは、任せきりにも、抱え込ませにもしないことです。候補者には、自分でまず考えた上で素案を持って即座に相談する報連相を徹底させます。
手綱を握るのは本人だという自覚を保たせながら、上司は受け身のアドバイザーとして関与します。座学のインプットと修羅場の実践を往復させることで、概念が体に染み込んでいきます。
ステップ4|行動を定着させ評価する
最後のステップは、身につけた行動を現場に定着させ、評価につなげることです。研修を「打ち上げ花火」で終わらせないための要となる工程です。
定着の決め手は「頑張る」や「徹底する」といった曖昧な言葉を禁じ、誰もが観測できる行動に変換することです。
たとえばコミットメントなら、即レスや細部の把握、最後まで投げ出さない執着といった行動に落とします。こうした行動の言語化は管理職向けスキルマップの活用法も参考になります。
評価も、成果だけでなく行動を起点に設計します。成果は市場環境に左右されますが、成果につながる行動は部門を超えて公平に評価できます。
行動の客観性を補うには、360度評価の活用も有効です。観測できる行動にまで分解し、評価と結びつけて初めて、育成は一過性で終わりません。
研修を実施しても現場の行動が変わらないと感じているなら、育成を仕組みに落とし込む段階に来ています。
以下の資料では、管理職育成が属人化や形骸化する原因を分析し、行動を具体化するメソッドと書き込み式ワークで、育成の仕組み化を自社で実践できます。
経営人材育成を成功させる3つのポイントと企業事例
育成プロセスを設計しても、運用を誤れば機能しません。ここでは仕組みを生かす3つのポイントと、参考になる企業の取り組みを整理します。
経営戦略と育成を連動させる
1つ目のポイントは、経営人材の育成を人事施策で完結させず、経営戦略と連動させることです。
人材版伊藤レポートが経営戦略と人材戦略の連動を掲げたように、育成は事業の方向性と切り離せません。どんな経営人材が必要かは、これから会社が目指す姿で決まります。
中期経営計画と接続されていない育成は、目的を見失います。研修のための研修になり、現場の行動も業績も変わりません。
育成投資の効果は、業績に直結する望ましい行動をどれだけ増やせたかで測ります。事業戦略から逆算する視点を持つことが、成功の前提になります。
経営トップが育成にコミットする
2つ目は、経営トップ自身が育成に深く関与することです。育成を人事部任せにした時点で、施策は形骸化します。
GE社では、社内のキーマンを集めた研修でカルチャー浸透をテーマに据えていると言われています。影響力を持つ上位層が会社の価値観を体現すれば、それが周囲へ波及していくためです。
トップのコミットが効くのは、メンバーがトップの一挙手一投足を見ているからです。言行に不一致があれば、どんな立派な方針も一気に説得力を失います。
経営人材を育てたいなら、まずトップが時間と本気度を注ぐ。その姿勢が、育成の本気度を組織に伝えます。
継続的なプロセスとして運用する
3つ目は、育成を単発のイベントではなく、継続的なプロセスとして回すことです。
経営人材は数ヶ月の研修で完成しません。あるべき像の定義から選抜、実践、評価、候補者の入れ替えまでを、数年単位で回し続ける必要があります。
ここで陥りやすいのが、特定の優秀人材を一部署で抱え込むことです。同じ環境に置かれた優秀人材は飽きが早く、刺激を求めて社外へ目を向けます。
DeNAでは、優秀人材を他部門へ送り出すことが称賛される文化があると言われています。計画的なジョブローテーションは、本人の成長と後任育成を同時に進める打ち手になります。
企業の経営人材育成の取り組み例
具体的な取り組みとしては、選抜したキーマンに経営視点を学ばせる社内塾の形式が広く見られます。
ただ、形式を真似るだけでは効果は出ません。重要なのは、座学に異業種交流や厳しいフィードバックを組み合わせ、行動変容まで設計に組み込むことです。
300社以上の支援現場でも、育成効果が高い企業に共通するのは、自社の課題を行動レベルで言語化できている点でした。
「うちの経営人材は、この場面でこの判断ができていない」と具体的に語れる企業ほど、育成は機能します。育成の仕組み化は人材が育たない原因は仕組みの欠如もあわせてご覧ください。
マネディクが提供する研修も、事前インプットから体験型ワーク、スキルマップによる行動の言語化、現場での実践と定着までを一気通貫で設計しています。
経営人材の育成を仕組みとして自社に実装したい企業にとって、こうした設計の考え方が参考になるはずです。
経営人材に関するよくある質問(FAQ)
経営人材に求められるスキルは何ですか?
不確実な状況で方向を描く構想力、正解のない局面で決め切る決断力、信頼で組織を動かす巻き込み力が中心です。加えて、当事者意識という覚悟が出発点になります。
経営人材の特徴は何ですか?
自ら決めて責任を引き受け、他責にせず最後まで成果に執着する点が特徴です。スピードを重視し、悪い情報ほど早く共有して、組織を巻き込みながら前進します。
「4つの人材」とは何を指しますか?
文脈によりますが、一般には方向を決める経営人材、実行を担う幹部人材、特定領域に強い専門人材、現場を支える人材という分類で語られることが多い言葉です。
経営人材と経営幹部の違いは何ですか?
経営人材は会社の方向性を決める人で、経営幹部はその方針を実行に移す人です。決める力と実現する力は別物のため、育成で鍛える対象も異なります。
経営人材は育成できるのですか?
育成できます。育たないのは素質の問題ではなく、座学偏重や正解探しを助長する育て方に原因がある場合がほとんどです。育て方の構造を変えれば計画的に育ちます。
経営人材育成にはどれくらいの期間が必要ですか?
短期研修では完成しません。選抜から実践、評価までを回す数年単位のプロセスと捉えるべきです。期間より、継続的に経験と学びを積ませる仕組みがあるかが重要になります。
中小・ベンチャー企業でも経営人材は育てられますか?
育てられます。人手が限られる分、キーポジションや社内のキーマンを早めに特定し、責任ある役割を任せて育てるやり方が効果的です。規模より、任せて学ばせる設計が成否を分けます。
まとめ|経営人材は「育て方の構造」で決まる
経営人材とは、企業の方向性を決め意思決定を担う人材です。実行を担う幹部人材とは役割が異なります。
求められるのは構想力や決断力、巻き込み力、そして当事者意識という覚悟でした。
優秀な管理職が経営人材として育たないのは、能力の問題ではありません。成功体験への固執や正解探しの癖、座学偏重の育成という構造に原因があります。
だからこそ、あるべき像の定義から選抜、修羅場の実践、行動の定着までを4つのステップで設計し、経営戦略と連動させて継続運用することが必要です。
マネディクは、300社以上の支援で培った知見をもとに、経営人材の育成を一過性で終わらせない仕組みづくりを支援しています。
ここまで見てきた通り、経営人材が育つかどうかは、能力ではなく育て方の構造で決まります。
自社の育成を構造から見直したい場合は、人材育成の仕組み化チェックシートで現状を診断するところから始めてみてください。
