パーパスとは?意味・MVVとの違い・浸透の仕組みを解説

パーパスとは?意味・MVVとの違い・浸透の仕組みを解説
目次

「パーパス経営」という言葉を耳にする機会は確実に増えました。一方で、自社で本当に作るべきか、ミッションや経営理念と何が違うのかを整理しきれずにいる経営者・人事責任者は少なくありません。

本記事ではパーパスの意味とMVV・経営理念との違いを整理し、注目される背景や掲げるメリットを解説します。

そのうえで、300社以上の組織開発支援から見えた「お題目で終わるパーパス」の構造的原因と、現場で機能させる浸透の仕組みまで踏み込みます。

パーパスとは何か

パーパスは「企業がなぜ存在するのか」を端的に示す概念です。

近年は「パーパス経営」という言葉が一般化し、多くの企業が掲げ始めています。

ただ、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)や経営理念との違いが曖昧なまま導入してしまうと、現場では同じものの言い換えに見えてしまいます。

まずは定義と類似概念との違いを整理しておきます。

パーパスの定義と語源

パーパス(Purpose)は英語で「目的」「存在意義」を意味します。

経営の文脈では自社が社会のなかでなぜ存在するのか、事業を通じて社会にどんな価値を生み出すのかを端的に示す宣言として使われます。

注目され始めた直接のきっかけは、2019年に米経済団体ビジネス・ラウンドテーブルが発表した「企業のパーパスに関する声明」とされています。

株主利益の最大化を最上位に置く考え方から、従業員・顧客・地域社会・取引先まで含めたステークホルダーへの価値提供を重視する考え方への転換を象徴する出来事でした。

日本でも同時期から大手企業を中心に導入が広がり、現在では中堅企業や成長ベンチャーにも波及しています。

ただ、言葉が広まる速度に対して中身の理解はばらついており、「とりあえず作ったが現場には届いていない」という相談はマネディクの現場でも頻繁に寄せられます。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)との違い

パーパスとMVVの関係はWhyとそれを支えるWhat/Where/Howとして整理すると見通しが良くなります。

パーパスが「なぜ自社が存在するのか」を表すのに対し、ミッションは「何を成し遂げるのか」、ビジョンは「どこを目指すのか」、バリューは「どんな価値観で動くのか」を担います。

すべての企業がパーパスを別途設ける必要はなく、すでにミッションが十分に「存在意義」を語っている場合は、再定義の意味は薄くなります。

逆に、ミッションが事業内容そのものに閉じてしまっており、社会のなかでの位置づけが薄い場合に、上位概念としてパーパスを設けると整理が利きます。

通念として「パーパスを作れば組織が動く」と語られがちです。しかし、肝心なのは階層整理よりも、現場の判断基準として機能するかどうかです。

概念

問い

時間軸

主な対象

パーパス

なぜ自社は存在するのか

普遍

社内+社外(社会全体)

ミッション

何を成し遂げるのか

中長期

社内+顧客

ビジョン

どこを目指すのか

中期

社内+投資家

バリュー

どんな価値観で動くのか

日常

社員

経営理念・クレドとの違い

経営理念は主に社内向けに掲げられる会社の根本思想であり、日本企業では創業の精神や行動の原則が含まれることが多い概念です。

クレドはラテン語の「信条」を語源とし、社員一人ひとりが日常で実践する行動規範を指します。リッツ・カールトンのクレドカードが代表例です。

パーパスは社内向け・社外向けの両方を兼ね、社会のなかでの位置づけを宣言する点が経営理念やクレドとは異なります。

ただ、これらを厳密に区別することに執着しすぎると、本来の目的を見失います。

300社以上の支援現場で見えてきたのは、概念の整理よりも現場の判断と行動が変わるかを起点に位置づけを決めるほうが、はるかに機能するという事実です。

呼び名は経営理念のままでも、内容がパーパス的に研ぎ澄まされていれば十分です。

なぜ今、パーパスが注目されるのか

パーパスがバズワード化している理由は、単なる流行ではありません。

経営を取り巻く3つの構造変化が同時に進んだ結果として、企業に「自分たちはなぜ存在するのか」を問い直す圧力がかかっています。

事業合理上、無視できない変化を順に解説します。

ステークホルダー資本主義への転換

株主利益の最大化を絶対視する経営から、従業員・顧客・地域社会・取引先まで含めた多面的な価値提供へと、世界の経営観は転換が進んでいます。

経済産業省「人材版伊藤レポート」をはじめ、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉える人的資本経営の流れも加速しています。

ESG投資の世界的な拡大もこれを後押ししました。

PRI(責任投資原則)の署名機関数は2006年の発足時から大幅に増加し、運用資産規模も拡大を続けています。投資家が企業を選ぶ基準として、財務指標だけでなく社会への態度が問われる時代になっています。

ただ、ESGに振り回されて本業の収益性を犠牲にしては本末転倒です。事業成長と社会的意義をいかに両立させるか。このAND思考の起点として、パーパスが機能する余地が広がっています。

若手人材の価値観の多様化

ミレニアル世代やZ世代は働く意味を給与や地位以上に重視する傾向が強いことが各種調査で示されています。

デロイトが毎年実施している「Gen Z and Millennial Survey」では、両世代の多くが「仕事に目的意識を持てることが職務満足度にとって重要だ」と回答しています。

採用市場で若手から選ばれる企業と、そうでない企業の差は、給与水準よりも「何のために働けるか」の解像度に出始めています。

ただ、これを「若手におもねる」と捉えると本質を外します。

経営者からすれば、自社の存在意義に共感する人材が集まることは、組織のカルチャーを保つうえでも、長期的な定着率を高めるうえでも合理的です。

マネディクが支援する成長ベンチャーでも、パーパスを軸に採用設計を見直した企業は、内定承諾率と入社後の早期離職率の両面で改善が見られています。

事業の不確実性が増した時代の「判断基準」

VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)という言葉が日常化したように、戦略も体制も顧客ニーズもコロコロ変わるのが現在のビジネス環境です。

このような環境では、戦略マニュアルや業務手順書のような硬直的な指針はすぐに陳腐化します。

往々にして、「マニュアルがないと動けない」社員ばかりが残り、想定外の状況で組織が止まる事態が起こります。

ここで効いてくるのが自社はなぜ存在するのかという普遍的な判断基準です。

戦略が変わっても、組織体制が変わっても、自社の存在意義に照らして今何をすべきかを各社員が考えられる状態は、変化への耐性を組織にもたらします。

ピーター・ドラッカーは「Culture eats strategy for breakfast(企業文化は戦略を朝食のように食べてしまう)」と語りました。その文化を支える背骨こそがパーパスです。

戦略の前に、判断基準を整えること。これが事業成長を続ける企業の共通項です。

パーパスを掲げる4つのメリット

パーパスを真に機能させた企業に共通して現れる効果は、感覚論ではなく構造的に説明できます。

ここでは特にエンプラ企業や成長ベンチャーで実感されやすい4つのメリットを解説します。

  • 従業員エンゲージメントの向上
  • 経営の意思決定が速くなる
  • ステークホルダーからの信頼獲得
  • 新規事業・イノベーションの創出

従業員エンゲージメントの向上

仕事の意味が明確になることは、エンゲージメントを支える最大の要素の1つです。

ギャラップの「State of the Global Workplace」調査では、エンゲージメントの高い従業員を抱える企業は、低い企業に比べて生産性や収益性が大きく高いことが報告されています。

ただし誤解してはいけないのは、パーパスを掲げただけでエンゲージメントが上がるわけではない点です。

エンゲージメントが上がるのは、自分の日常業務とパーパスがつながっていると本人が腹落ちした瞬間です。

経理担当者が「自分の仕事は、この会社が社会に価値を届け続けるための土台を作っている」と語れる状態。

営業担当者が「目の前の数字だけでなく、顧客が成し遂げたい事業を支えている」と感じられる状態。

ここまで降ろせていないパーパスは、給与や評価制度よりもむしろ冷ややかに見られます。「立派なお題目を掲げる暇があるなら、現場の課題を見てくれ」と。

経営の意思決定が速くなる

組織が拡大するほど、判断軸のばらつきによって意思決定が遅くなる現象が起きます。

各部門が個別最適で動き、調整コストが膨らみ、結局トップに判断が集中する。これは数十名から数百名規模に成長したベンチャーが必ずぶつかる構造的な課題です。

ここでパーパスが共通の判断軸として機能すると、各層の意思決定スピードが目に見えて変わります。

新規事業の可否、提携の判断、人材採用の最終判断。すべて「自社の存在意義に照らしてどうか」という問いが共有されていれば、現場マネージャーが自信を持って決めきれます。

トップに上がってくる判断の数が減り、上がってくる判断は本当に重要なものだけに絞られます。

この構造を作れるかどうかが、組織が次のステージに進むうえでの分岐点になります。

ステークホルダーからの信頼獲得

投資家、顧客、取引先、地域社会、採用候補者。すべてのステークホルダーが「この企業は何のために存在しているのか」を判断材料にし始めています。

特に大企業との取引においては、サプライヤー選定の基準にパーパスや人的資本への取り組みを組み込む動きが広がっています。

経済産業省「価値協創ガイダンス」も、企業価値の評価軸として「価値観・存在意義」を明示的に位置づけています。

ただし、これも「外向きの広報」として作ると逆効果です。

きれいごとを並べたパーパスは、ステークホルダーから見ても薄っぺらく映り、むしろ信頼を損ねます。

語ったことが日常の意思決定に表れているか、社員が自分の言葉で語れるか。ここまで一貫していて初めて、信頼の獲得につながります。

新規事業・イノベーションの創出

パーパスは新規事業を考えるときのやる/やらないの判断軸として機能します。

事業機会は無数にあるなかで、「自社の存在意義に照らして取り組むべきか」を問えると、選択と集中が自然に働きます。

ソニーがゲーム・音楽・映画・金融・センサー事業まで多角化しながら一定の整合性を保てているのは、共通のパーパスが判断軸として機能しているからです。

逆にパーパスがなければ、目先の収益機会に飛びついて事業ポートフォリオがバラバラになり、社員も投資家も「結局この会社は何の会社なんだ」と混乱します。

イノベーションは奇抜なアイデアから生まれるのではなく、自社らしさの解像度を高めた先に生まれます。

事業成長ドリブンで考えたとき、パーパスは「縛り」ではなく集中力を生む装置として捉え直すべきです。

パーパスが「お題目」で終わる3つの構造的原因

パーパスを掲げる企業は増えました。しかし、現場で機能している企業はそのうちのごく一部です。

マネディクが300社以上の組織開発を支援するなかで、パーパスが形骸化する原因はほぼ3つに集約されることが見えてきました。

これは「やり方が悪かった」という表面的な話ではなく、構造的に起こる必然です。

原因1:策定者の自己満足で終わっている

経営者と一部の幹部が合宿で議論し、コピーライターと言葉を磨き、満足のいくパーパスステートメントが完成する。

ここまではよくあるプロセスですが、作って終わりになっている企業が圧倒的に多いのが実態です。

策定者は数日間の議論を通じて言葉に深い意味を込めますが、それを聞かされる側の社員は1回のキックオフ動画と全社メールでしか触れません。情報量の差は100倍以上です。

これは「いいパーパスができた」と経営者が達成感を得てしまい、そこで案件がクローズしてしまう構造に原因があります。

策定はあくまでスタート地点であり、ここから10倍の労力をかけて浸透の設計をしないと、現場には何も届きません。

策定段階で「浸透フェーズに策定の10倍の投資をする」と覚悟を決められるかどうかが、最初の分岐点になります。

原因2:抽象度が高すぎて日常の判断に使えない

「社会に価値を届ける」「人々の幸せに貢献する」。

このような抽象度のパーパスは、聞こえは良いものの、現場の日々の意思決定にはほぼ使えません。

営業担当が顧客からの値引き要求にどう答えるか、開発担当が機能の優先順位をどう決めるか、人事担当が応募者をどう評価するか。

こうした現場のリアルな判断シーンとパーパスが接続されていないと、結局は使われない指針として終わります。

優れたパーパスは抽象度が高いだけでなく、自社の事業や顧客像と結びついた具体性を持っています。

自社のパーパスを聞いたとき、社員が10秒で「じゃあ今日のあの判断はこうだな」と動けるか。

この問いに答えられない抽象度なら、書き直したほうがいい。これがマネディクの一貫した立場です。

原因3:管理職が「翻訳」できていない

パーパスを現場で機能させるうえで、最も決定的な要素が管理職による翻訳です。

経営者が掲げた言葉を、各部門の業務、各メンバーの目標、日々の判断にまで落とし込むのは、経営者には物理的に不可能です。

組織が30人を超えた時点で、経営者一人がすべての社員と対話し続けることはできません。この断絶をつなぐ唯一の役割が、現場の管理職層です。

ところが多くの企業で、管理職はパーパスを「経営者の言葉」として受動的に聞かされるだけで、自分の言葉で部下に語る訓練を受けていません。

結果として、「うちの会社のパーパスは○○です」と紙を読み上げるだけのキックオフが繰り返され、現場の心は冷えていきます。

逆に言えば、管理職が翻訳の役割を担えるよう設計できれば、パーパスは一気に現場に降りていきます。

ここが他社との決定的な違いを生むポイントであり、後段のステップ3で詳しく解説します。

管理職育成の本質や仕組み化の進め方については、以下の記事も合わせてご覧ください。

なぜ管理職が育たないのか?成長企業が陥る理由と育成の仕組み化

パーパスを現場で機能させる4つのステップ

ここからは、形骸化を避けてパーパスを現場で機能させるための具体的なステップを解説します。

300社以上の組織開発支援から共通項を抜き出した、再現性の高い手順です。

順序を守ることが重要で、ステップを飛ばすと結局「お題目」の罠に戻ります。

  1. 自社の歴史と強みから言語化する
  2. 観測可能な行動レベルまで分解する
  3. 管理職への翻訳を仕組み化する
  4. 日常業務・評価制度に組み込む

ステップ1:自社の歴史と強みから言語化する

パーパスは「ありたい姿」から作るのではなく、これまで自社が事実として成し遂げてきたこと、独自の強み、顧客から受けてきた評価から立ち上げるのが定着の前提です。

経営者個人の夢や憧れを言葉にしただけのパーパスは、現場社員にとって「他人事」になります。

一方、自社の歴史的事実と独自性に根ざしたパーパスは、社員が「自分たちのストーリー」として受け止められます。

具体的には、創業者へのインタビュー、過去10年で社内が誇った大型案件の洗い出し、顧客からの感謝の声の集約、競合と比べて自社が一貫して大切にしてきた判断軸の言語化、といったプロセスを踏みます。

このフェーズに3〜6ヶ月かけるくらいの覚悟が必要です。短期間で言葉だけ磨くと、内容に魂が入りません。

「自社の事実から立ち上げる」という制約を守ると、結果として他社には真似できないオリジナルのパーパスが生まれます。

理念浸透の進め方については、以下の記事で7つの施策を体系化しています。

理念浸透の方法とは?理解を実践に変える7つの施策をプロが解説

ステップ2:観測可能な行動レベルまで分解する

パーパスを掲げただけでは、現場の行動は1ミリも変わりません。

ここで必要になるのが観測可能な行動への分解です。

マネディクでは「頑張る」「徹底する」「コミットする」といった、形容詞や副詞だけで構成される行動指針を禁止しています。誰が見ても同じ判断ができないからです。

例えばパーパスに「顧客の事業成長への貢献」という要素があるなら、現場の行動は「顧客の中期経営計画を必ずヒアリングし、自社製品が貢献する論点をプレゼン資料に明記する」という具体まで分解します。

「社員の挑戦を称える」という要素があるなら、「週次1on1でメンバーが挑戦したアクションを最低1つ言語化し、上司が承認する」という具体まで降ろします。

ここまで分解されて初めて、現場マネージャーが部下にフィードバックでき、評価制度に組み込まれ、採用基準にも反映できる状態になります。

行動指針の作り方や、形容詞・副詞を禁止して具体行動に変換する考え方は、以下の記事でも詳しく解説しています。

行動指針の作り方とは?成長企業の事例や浸透方法を解説

ステップ3:管理職への翻訳を仕組み化する

ステップ2で行動に分解できたら、次は管理職一人ひとりが、自分の言葉で部下に語れる状態を作ります。

ここを仕組みにせず、「マネージャー各位の自主性に任せる」と現場の浸透度はバラバラになります。

  • 管理職向け集合研修(パーパスを自部署の業務と結びつけるワークショップ)
  • 部署別アクションプランの策定セッション
  • 管理職同士の相互レビュー会
  • 現場での実践と上司からのフィードバックループ
  • 評価制度との接続

マネディクが提供するマネージャー研修も、まさにこの「翻訳力」を体系的に身につけることを目的としています。

管理職に求められるのは、経営者の言葉をオウム返しすることではなく、自部署の文脈で再解釈し、メンバーが日々の業務で迷ったときに使える形に直すことです。

この役割を担える管理職が3割を超えた時点で、組織全体の温度感が変わります。逆に1割を切っていると、何度全社集会を開いても浸透しません。

ステップ4:日常業務・評価制度に組み込む

最後のステップはパーパスを日常に組み込む仕組みづくりです。

年1回の周年イベントで唱和するだけでは、絶対に浸透しません。

実装の典型例として、以下のような施策の組み合わせが挙げられます。

  • 人事評価のコンピテンシー項目にパーパス由来の行動を組み込む
  • 1on1のテンプレートに「今期、パーパスに沿った挑戦は何か」という問いを入れる
  • 社内表彰制度をパーパス体現者を称える形に再設計する
  • 月次の経営者メッセージで自社が体現できた事例を共有する
  • 新入社員研修・管理職昇格研修の必修科目に組み込む

特に評価制度への組み込みは強力です。賞与・昇格に影響する仕組みになれば、社員は本気で向き合います。

ただし注意点として、評価項目に組み込んだ瞬間に「点数稼ぎ」が始まり、本来の精神が形骸化するリスクもあります。

評価項目の文言は具体行動レベルで定義し、上司による定性評価と組み合わせる。この設計のバランスを取り続けることが、運用上の最大のポイントになります。

パーパス経営の企業事例3選

ここまで解説してきた「パーパスを機能させる」観点で、参考になる企業事例を3つ紹介します。

事例から学ぶべきはきれいな言葉ではなく、それを現場の判断と行動にどう降ろしているかという運用設計の部分です。

ソニーグループ|「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」

ソニーグループは2019年に上記のパーパスを制定し、ゲーム・音楽・映画・電機・金融・センサーまで多岐にわたる事業ポートフォリオの共通軸として位置づけました。

電機メーカーとしての出発点から多角化を重ねるなかで、「自分たちは結局何の会社なのか」という問いが社内外で繰り返されてきた歴史があります。

パーパスの制定によって、この問いに対する経営の回答が示されました。

特筆すべきは、年次報告書から事業計画、採用メッセージ、社内表彰制度まで、あらゆるコミュニケーションにパーパスが貫かれている点です。

新規事業の承認会議でも「このプロジェクトはパーパスに沿っているか」が問われると報告されており、判断軸として実装されている事例といえます。

ネスレ|「食の持つ力で、現在そして未来の世代のすべての人々のQOLを高めていく」

ネスレは2020年代に入り、長年掲げてきた「Good food, Good life」というブランドプロミスを進化させ、上記のパーパスを掲げました。

グローバルで180ヶ国以上に事業展開する同社にとって、ローカルな意思決定が無数に発生します。

工場の閉鎖判断、新製品の開発、サプライヤー選定、地域社会への投資。これらすべてを本社が判断することはできません。

各国・各拠点のマネージャーが自律的に意思決定できる軸として、パーパスが機能しています。

具体的には、製品の栄養価向上目標、サプライチェーンの環境負荷削減目標、農家との長期契約による生活支援など、定量目標とセットでパーパスが運用されています。

掲げると測るが一体化している点が、形骸化を防いでいるポイントです。

ライオン|「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する」

ライオンは中長期経営戦略の中核として、上記のパーパスを位置づけました。

歯磨き粉や洗剤を売る企業から、生活者の習慣そのものを再設計する企業へと自社の定義を拡張した点が特徴です。

この再定義により、デジタルサービス事業や法人向け健康経営支援事業など、従来の物販を超えた領域への進出が論理的に説明できるようになりました。

社内向けには「より良い習慣」を体現する社員の表彰制度や、商品開発における習慣変容指標の導入など、運用面の工夫も重ねられています。

既存事業の延長線上にパーパスを置き、新領域への接続も同時に可能にした事例として参考になります。

事例企業が実装まで進められているのは、組織の体力があったからではなく、自社の組織状態を冷静に診断したうえで適切な打ち手を選んできたからです。

自社のパーパスが形骸化していないか確認するには、組織健康度を20項目で5分で診断できる以下の資料が役立ちます。組織課題の現在地を把握するところから始めてみてください。


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まとめ|パーパスは「掲げる」より「機能させる」

パーパスは企業の存在意義を示す概念であり、ミッション・ビジョン・バリューや経営理念とは「Why」を担う点で異なります。

ステークホルダー資本主義への転換、若手人材の価値観多様化、不確実性の高い経営環境という3つの構造変化を背景に、注目が高まっています。

ただし本記事で繰り返し述べてきた通り、パーパスは掲げることよりも機能させることのほうが10倍難しいのが現実です。

形骸化の原因は、策定者の自己満足・抽象度の高すぎる言葉・管理職の翻訳不足という3つに集約されます。

これを乗り越えるには、自社の事実から言語化し、観測可能な行動に分解し、管理職への翻訳を仕組み化し、評価制度まで組み込むという4ステップが必要です。

抽象論で終わらせず、自社のマネージャー一人ひとりが部下に語れる状態を作れるか。ここがエンプラ企業・成長ベンチャーを問わず、パーパスが事業成長に効くかどうかの分かれ目になります。

ここまで解説してきた通り、パーパスの真価が問われるのは策定後の浸透段階です。

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パーパスに関するよくある質問

パーパスとパーパス経営の違いは何ですか?

パーパスは「企業の存在意義そのもの」を指す概念で、パーパス経営は「パーパスを意思決定や日常業務の中心に据えて経営する手法」を指します。前者は宣言、後者は実装です。

パーパスは中小企業・ベンチャーでも作るべきですか?

規模ではなく事業フェーズで判断するのが妥当です。創業数年で事業の核がまだ定まっていない時期は、無理に作るより事業の成功パターンを言語化するほうが優先されます。

パーパスの英語表記と本来の意味は?

Purposeで、「目的」「意図」「存在意義」を意味します。ビジネス用語としては「企業が社会のなかで存在する根本的な理由」を指し、単なる目標(Goal)とは区別されます。

パーパスとSDGsはどう違いますか?

SDGsは国連が定めた17の持続可能な開発目標であり、世界共通の課題リストです。パーパスは自社固有の存在意義を示すもので、SDGsとの接続を通じて社会的意義を補強する関係になります。

パーパスは何年で見直すべきですか?

事業環境や自社の事業領域に大きな変化があったときが見直しのタイミングです。一般的には5〜10年に一度の本格見直しと、年次での運用面のチューニングを組み合わせる企業が多く見られます。

パーパスがあると採用にプラスになりますか?

応募数を増やす広告効果より、入社後のミスマッチを防ぐ効果のほうが本質的です。共感する候補者が集まり、共感しない候補者が辞退することで、入社後の早期離職リスクが下がります。

パーパスを社員に浸透させる第一歩は何ですか?

経営層自身が「事業の文脈」で日常的に語ることです。年に1度の唱和ではなく、毎月の意思決定や経営会議で「パーパスに照らすとどうか」と問う姿勢から、組織全体に伝播していきます。

川﨑 俊介
記事を書いた人
川﨑 俊介

新卒で当時6期目(60~70名規模)の株式会社ジーニーへ入社。入社後3年間でリーダー、マネ―ジャー、部長とマネジメント経験を積み、入社後4年目で事業責任者兼執行役員に就任。組織も300名を超え、グロース上場を経験。 その後海外事業など含む複数事業の責任者、常務執行役員を経て、2022年に取締役に就任。経営企画や人事などコーポレート領域も管掌。組織規模としても1000名を突破。 2024年4月に独立し、個人で人事・経営コンサル業も成長企業に対して実施しつつ、同年12月にマネディク株式会社CEO/アクシス株式会社取締役COOにも就任。

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