セカンドラインマネジャーとは?役割と求められるスキル、3つの壁の越え方を解説

セカンドラインマネージャーが求められる背景
まず、なぜ今「セカンドラインマネジャー」という役割が重要視されているのでしょうか。
その前提として、現場の管理職である「ファーストラインマネジャー」との違いを理解しておく必要があります。
ファーストラインマネジャーとの決定的な違い
ファーストラインマネジャーとセカンドラインマネジャーの最も大きな違いは、その「視座」と「責任範囲」にあります。
ファーストラインマネジャー(課長・係長)は、「現場の実行責任者」として位置づけられます。
彼らの主な役割は、担当チームの目標達成に向けてメンバーを直接管理・指導することであり、その視点は担当チームのKPI達成やメンバーの育成といった現場が中心となります。
一方で、セカンドラインマネジャー(部長・事業部長)は、「事業の推進責任者」としての役割を担います。
複数のチームを統括し、事業や部門全体の成果を最大化することがミッションであり、事業全体のKGI達成や組織間の連携、さらにはファーストラインマネジャー自身の育成といった、より経営に近い視点が求められるのが大きな違いです。
つまり、ファーストラインが「How(いかにして目標を達成するか)」に責任を持つのに対し、セカンドラインは「What(何を目標とすべきか)」や「Why(なぜそれを目指すのか)」という、より上流の意思決定に関与するのです。
なぜ今、セカンドラインマネジャーの重要性が増しているのか
近年、特に成長企業において事業の多角化や組織の急拡大の背景を受け、セカンドラインマネジャーの重要性が増しています。
組織が成長し、従業員が50人、100人と増えていくと、社長一人が全社員に目を配ることは物理的に不可能になります。現場では次々と新任のマネージャー(ファーストライン)が生まれますが、彼らはまだ自分のチームを率いるのに手一杯です。
このとき、経営陣が描くビジョンや戦略と、現場の実行部隊との間に大きな溝が生まれます。
この溝を埋め、経営と現場の「ハブ」として機能するのがセカンドラインマネジャーの役割です。セカンドラインマネージャーが育たなければ、組織は成長の壁にぶつかり、失速してしまいます。
セカンドラインマネジャーの具体的な3つの役割
では、セカンドラインマネジャーは具体的に何をすべきなのでしょうか。
その役割は、大きく3つに分けられます。
役割1:戦略の翻訳と実行
セカンドラインマネジャーの最初の重要な役割は、経営陣が掲げる抽象的なビジョンや経営戦略を、現場が実行可能なレベルまで「翻訳」することです。
例えば、経営会議で「今期は顧客満足度を最優先する」という方針が決まったとします。
しかし、現場のマネージャーやメンバーは「具体的に何をすれば?」と混乱してしまいます。
例えば、経営会議で「全社最適の経営戦略」として「今期は既存顧客へのアップセルを強化し、LTV(顧客生涯価値)を最大化する」という方針が決まったとします。この抽象的な戦略だけでは、現場のファーストラインマネジャーたちは「具体的に、我々のチームは何をすれば?」と動き出すことができません。
ここでセカンドラインマネジャーが、上層部の決定を現場に伝える「結節点」として機能します。
結節点として、その戦略を現場が実行できる具体的な言葉や目標にまで噛み砕き、その意図までを正しく伝える役割が求められるのです。
このように、セカンドラインマネジャーは全社戦略を部門の目標(KGI)に分解し、各チーム(ファーストライン)のミッションを定義します。それを受けて、各ファーストラインマネジャーが、自分のチームメンバーに「誰が・いつまでに・何をするか」という具体的なタスク(KPI)を指示していく体制が成長企業では特に求められます。
役割2:ファーストラインマネジャーの育成と評価
セカンドラインマネジャーは、自らがスーパープレイヤーとして現場の先頭に立つのではなく、「マネージャーを育てるマネージャー」であることが求められます。
具体的には、以下のようなアクションが求められます。
⚫︎定期的な1on1:
ファーストラインマネージャーが抱えやすい特有の課題や悩みを聞き、課題を壁打ちし、視座を引き上げる。
⚫︎権限移譲:
マイクロマネジメントをせず、思い切って仕事を任せ、成功体験を積ませる。
⚫︎適切なフィードバック:
成果だけでなく、プロセスやリーダーとしての成長に着目して評価し、伝える。
役割3:組織全体の最適化と文化醸成
セカンドラインマネジャーは、自分の部門だけでなく、組織全体を俯瞰し、最適化する役割を担います。
複数のチームを見ていると、「部署間で連携が取れておらず、非効率な業務が発生している」「Aチームのリソースが不足しているのに、Bチームでは余剰人員が出ている」といった、一つのチームだけでは見えない組織全体の課題が見えてきます。
これらの課題を発見し、部門間の連携を促したり、リソースを再配分したりすることで、組織全体の生産性を向上させるのです。 また、経営理念や会社のバリューを自らが体現し、日々の言動を通じて現場に浸透させていくことも非常に重要です。
セカンドラインマネジャーが直面する「3つの壁」と乗り越え方
多くの人が、役割移行の過程で高い「壁」にぶつかります。
ここでは代表的な3つの壁と、その具体的な乗り越え方を紹介します。
壁1:「プレイングマネージャー」から抜け出せない
最も多くの人が陥るのがこの壁です。
特に、現場のトッププレイヤーとして成果を上げて昇進した人ほど、この壁にぶつかりやすい傾向があります。
⚫︎部下であるマネージャーの仕事に口を出し、結局自分でやってしまう。
⚫︎メンバーから直接相談が来てしまい、担当マネージャーを飛び越えて指示を出してしまう(マネージャー飛ばし)。
⚫︎いつまでも現場の実務が手放せず、本来やるべきマネージャーの育成や戦略策定に時間を使えない。
【乗り越え方】
この壁を越えるためには、「自分がやった方が早い」という思考からの脱却しましょう。
- 役割の自己認識を変える:
「自分の仕事は、自分が成果を出すこと」から、「マネージャーたちが成果を出せる環境を作ること」へと、役割定義を頭の中で書き換えましょう。 - 「任せ方」の技術を磨く:
丸投げはNGです。マネージャーの顔を潰さずに任せるには、「Why(目的)とWhat(ゴール)は明確に伝え、How(方法)は本人に考えさせる」というスタンスが重要です。 - 思考を切り替える訓練:
手を出したくなったら、一度立ち止まり、「ここで自分が介入することは、本当にこのマネージャーと事業の長期的な成長に繋がるか?」と自問自答する癖をつけましょう。短期的な成果より、長期的な育成を優先する覚悟が必要です。
壁2:視座が上がらず、短期的な成果に囚われる
次の壁は、視座が現場レベルから抜け出せず、経営的な視点を持てないという問題です。
⚫︎自分の担当部門のKPIしか見ておらず、他部署の状況や全社の利益に無関心。
⚫︎目先の売上や目標達成ばかりに気を取られ、中長期的な事業戦略を考えられない。
⚫︎上司から「もっと全体を見て」と言われるが、具体的にどうすればいいか分からない。
【乗り越え方】
視座を上げるには、意図的に経営の視点に触れる機会を増やすことが不可欠です。
- 上司の思考をトレースする:
日々の業務の中で、「なぜ上司はこの意思決定をしたのだろう?」とその背景を常に考える癖をつけましょう。1on1などの場で「今回の件、どのような背景で判断されたのか、今後のために教えていただけますか?」と積極的に質問し、思考プロセスを学ぶのが最も効果的です。 - 数字の解像度を上げる:
担当部門のKPIだけでなく、事業全体のPL(損益計算書)や事業計画書に目を通し、「自分のチームの活動が、全社のどの数字にどう繋がっているのか」を意識することが重要です。 - 社内外にネットワークを広げる:
他部署のマネージャーと積極的にコミュニケーションを取り、彼らがどんな課題を持っているのかに関心を持つこと。そして、社外のセミナーや勉強会に参加し、自分とは違う視点を持つ人と交流することも、視野を広げる上で役立ちます。
壁3:育成の基準がわからず、再現性のあるリーダーを育てられない
最後の壁は、マネージャー育成が属人化してしまい、組織としてリーダーを輩出する仕組みが作れない、という課題です。
⚫︎「自分の背中を見て育て」というスタイルで、育成が我流になっている。
⚫︎誰を次のマネージャーに引き上げるべきか、明確な基準がない。
⚫︎結果として、自分と同じようなタイプのリーダーしか育たず、組織の多様性が失われる。
【乗り越え方】
この壁を越えるには、属人的な育成から脱却し、仕組みでリーダーを生み出す視点が求められます。
- リーダー像を言語化する:
まず、自社(あるいは自部門)において「優れたリーダーとは何か?」を定義し、具体的な行動レベルで言語化します。例えば、「目標達成力」「部下育成力」「課題発見力」といったコンピテンシー(行動特性)を定義し、それぞれのレベルを定めます。 - 評価と育成の仕組みを作る:
言語化したリーダー像を基に、評価制度や育成プログラムを設計します。例えば、コンピテンシー評価を導入したり、次期リーダー候補者向けの研修を体系的に実施したりすることが考えられます。 - 専門家に頼る:
育成体系の構築は、現場のマネージャーだけで行うには限界があります。人事部や外部のマネジメント(管理職育成)研修会社と連携し、全社的な視点から育成の仕組みを構築していくことが、再現性のあるリーダー輩出に繋がります。
市場価値の高いセカンドラインマネジャーになるためのスキル
これらの壁を乗り越え、市場価値の高いセカンドラインマネジャーとして活躍するためには、以下の3つのスキルが不可欠です。
スキル1:組織課題解決力
目の前の事象に個別対処するだけでなく、その背後にある組織の構造的な課題を発見し、解決策を立案・実行する能力です。なぜこの問題が繰り返し起こるのか、その根本原因は何かを突き止め、仕組みで解決する力が求められます。
スキル2:戦略的思考力
現場の視点だけでなく、経営の視点で物事を捉え、担当事業の3年後、5年後の未来を描き、その実現に向けた道筋を立てる能力です。市場の変化や競合の動向を読み、自社の強みを活かした戦略を構想する力が問われます。
スキル3:コーチング・ティーチング能力
メンバーや状況に応じて、答えを与える「ティーチング」と、相手の中から答えを引き出す「コーチング」を使い分ける能力です。特にファーストラインマネジャーに対しては、彼らが自ら考え、行動できるようになるためのコーチングスキルが極めて重要になります。
まとめ
本記事では、セカンドラインマネジャーの役割と求められるスキル、そして多くの人が直面する3つの壁と乗り越え方について解説しました。
セカンドラインマネジャーは、企業の持続的な成長に欠かせない、まさに「要」となる存在です。
その役割を深く理解し、必要なスキルを意識的に磨くことが、あなた自身の市場価値を高め、そして所属する組織をさらなる成長へと導くでしょう。
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