役員研修とは?良い話で終わらせない5つのテーマと設計手順を解説

役員研修とは?良い話で終わらせない5つのテーマと設計手順を解説
目次

役員研修を実施しても、受講した役員の判断や行動が変わらない。人事・経営企画の現場でよく聞く悩みです。

テーマを揃え、著名な講師を呼んでも、「良い話だった」で終わる研修が後を絶ちません。

原因は、研修の中身ではなく設計の前提にあります。役員層は管理職層と学習構造が異なり、同じ設計思想では機能しません。

本記事では、300社以上の成長企業を支援してきた組織開発の視点から、役員研修が形骸化する構造的な原因、扱うべき必須テーマ、そして成果につなげる設計プロセスを整理します。

役員研修とは:対象と目的の整理

役員研修とは、取締役・執行役員・役員候補を対象に、経営判断・ガバナンス・組織統率に必要な知識と判断軸を獲得させる研修の総称です。

管理職研修の上位互換ではなく、対象も目的も別物として設計する必要があります。

役員研修の対象範囲(取締役・執行役員・役員候補)

役員研修の対象は、大きく3層に分かれます。取締役会メンバー、執行役員・事業本部長クラス、次期役員として育成中の部長クラスです。

3層は役割と権限が異なるため、同じプログラムでカバーしようとすると焦点がぼやけます。

取締役は株主・取締役会への説明責任と会社法上の義務が中心。執行役員は執行の意思決定と全社リソース配分、新任役員候補は経営視点への思考の切り替えが論点になります。

事業合理上、研修設計の最初の一歩は「誰に何を身につけさせるか」の解像度を上げることです。

対象を混ぜた瞬間、どの層にも中途半端な内容になります。300社の支援現場を見ても、役員研修が形骸化するケースではこの対象定義が曖昧な場合が大半を占めています。

管理職研修との決定的な違い

管理職研修と役員研修は、地続きではありません。管理職研修の目的は部下育成と目標達成のためのマネジメント技術の習得です。

一方、役員研修の目的は会社全体の持続的成長に対する意思決定能力の獲得にあります。

管理職は担当領域の最適化に責任を持ちますが、役員は全社最適と中長期の価値創造に責任を持ちます。求められる時間軸も、扱う変数も、リスクの桁も違います。

つまり、管理職研修で使うフレームワークをそのまま役員層に当てるとレベル感が合わず、受講者の学習意欲が下がります。

得てして、管理職研修の延長として役員研修を企画すると、役員本人から「この内容は若手向けだ」という反応が返ってきます。

管理職との違いを言語化したうえで、役員固有のテーマを据えることが設計の出発点になります。

なお、管理職研修そのものの設計論は以下の記事で詳しく解説しています。役員研修と合わせて整理すると、自社の研修体系が俯瞰しやすくなります。


【2025年最新】管理職研修の目的と内容を徹底解説|階層・課題別のカリキュラム例も紹介

管理職研修の目的・カリキュラム設計・階層別の論点を整理した記事。役員研修との役割分担を考える際の参照資料として活用できます。

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役員研修が改めて必要とされている背景

役員研修のニーズが高まっている背景には、複数の経営環境の変化があります。

コーポレートガバナンス・コードの改訂により、取締役会の実効性評価や役員トレーニングの方針開示が求められるようになりました。

人的資本の情報開示も2023年3月期から義務化され、役員層の人材育成責任が可視化されています。

加えて、事業環境の不確実性も役員研修の重要性を押し上げています。DX、生成AI、気候変動対応、地政学リスクなど、過去の成功体験だけでは判断できない論点が増えました。

事業承継のタイミングで、社長交代に伴って役員陣を刷新する局面でも、役員研修は使われます。

「制度対応として形だけやる研修」と「経営実態に合わせて行動を変える研修」は別物です。この区別ができないまま企画すると、開示用の履歴は残っても組織は動きません。

役員研修が「良い話で終わる」構造的な原因

多くの役員研修が「良い話だった」の一言で終わります。受講者は満足し、事務局は無事に完了報告を出すものの、現場の意思決定は変わらない。

この現象は役員個人の能力ではなく、研修の設計構造に原因があります。大きく3つの構造問題を整理します。

テーマが「教養」に寄りすぎて自社課題と乖離する

役員研修のテーマには、リベラルアーツや歴史・哲学といった教養系コンテンツがよく採用されます。抽象度が高く、役員層にとって知的刺激が大きいからです。

しかし、事業成長ドリブンの視点から見ると、教養偏重の研修は費用対効果が読めません。

教養系テーマが悪いのではなく、自社の経営課題との接続が弱いまま実施されることが問題です。

「哲学の視点で経営を捉える」というテーマ単体は魅力的でも、自社の中期経営計画や業績課題とのひも付けがなければ、翌日からの意思決定には転換されません。

往々にして、教養テーマは講師の格を上げやすく、役員層の満足度アンケートも高くなります。ただ、満足度と行動変容は別の指標です。

自社の課題に引きつけて教養を解釈する時間を設計できるかが、研修の価値を決める分水嶺になります。

講義型で「当事者意識」が立ち上がらない

役員研修の多くは、著名講師による講義を中心に構成されます。しかし講義は、聞き手を受動的にします。

役員は普段、意思決定する側の立場にいるため、受講者として「聞くだけ」の姿勢になった瞬間、学習モードではなく評論モードに切り替わります。

評論モードの役員は、講師の話の粗を探すか、自社に当てはめずに聞き流します。これは役員本人の問題ではなく、構造が当事者意識を立ち上げない設計になっているためです。

当事者意識を起こすには、本人の意思決定パターンを俎上に載せるしかありません。

300社の支援現場でも、講義比率が高い役員研修ほど「勉強になった」で終わる傾向が強く出ます。

自社の実データを使ったケーススタディ、役員同士の意思決定ディベート、フィードバック設計ワークなど、手を動かす時間を研修の中核に据えることが不可欠です。

研修後の行動が観測不能なまま終わる

研修後に「学んだことを活かしましょう」「組織を良くしていきましょう」という抽象的な締め方で終わるケースが目立ちます。

これでは、何が変わればゴールかを誰も判定できません。モチベーションは行動の結果であり、精神論で役員の行動は動きません。

行動が観測できない状態は、効果測定も不可能にします。経営会議で「研修の成果は出ているか」と聞かれても、事務局は数値で応答できません。

やがて研修予算自体が削減対象になります。形骸化のサイクルは、行動の観測不能性から始まっています。

設計段階で、研修後に何を・いつ・どの会議体で扱うかを決めておくことで、行動が観測対象になります。

「頑張る」「徹底する」という曖昧語を禁止し、観測可能な行動レベルまで分解することが、形骸化を防ぐ最初の仕組みです。

以上の3つの構造問題は、いずれも企画段階で回避できる論点です。外部サービスに企画を渡す前に、自社側で判断軸を固めておく必要があります。

自社の役員研修をどう設計すべきか、判断軸を整理するには主要6社の研修サービスを比較した【主要6社比較】管理職研修サービス 選定ガイドが参考になります。

費用・対象層・特徴の比較軸が整理されているため、役員研修の要件定義にも応用できます。

役員研修で扱うべき5つの必須テーマ

役員研修のテーマは多岐にわたります。網羅的に並べるとキリがないため、事業成長ドリブンの観点から優先順位の高い5分類に絞ります。

自社の経営課題に応じて、5つのうちどこに比重を置くかを決めることが、テーマ設計の実務になります。

  • ① 経営判断力(戦略・財務・マーケティング)
  • ② コーポレートガバナンスとコンプライアンス
  • ③ 人的資本経営と組織開発
  • ④ DX・テクノロジーリテラシー
  • ⑤ 役員としてのマインドセット

① 経営判断力(戦略・財務・マーケティング)

経営判断力は、役員研修で最初に押さえるべき核となるテーマです。

事業戦略、財務諸表の構造的理解、資本政策、マーケティング投資の意思決定など、全社のリソース配分を判断するための共通言語を揃えます。

特に財務リテラシーは、多くの日本企業の役員層で弱点となりがちな領域です。

PL中心の思考から抜け出し、BS・キャッシュフロー・ROIC(投下資本利益率)の視点で事業を評価できるようになることが求められます。

ROICとは、企業が事業に投じた資本に対してどれだけ利益を生んだかを測る指標のことです。

経営者研修や社長研修と共通するテーマ群でもありますが、役員研修では「自社の中期経営計画と財務三表」を教材にします。

これによって、抽象的な経営理論から自社の意思決定への接続が一気に高まります。

② コーポレートガバナンスとコンプライアンス

コーポレートガバナンス・コードへの対応、内部統制、会社法上の役員義務は、役員研修の必須テーマです。

コンプライアンス研修としての役員向けカリキュラムも、ここに含まれます。役員研修の中でハラスメント研修や独占禁止法、インサイダー取引規制を扱う企業も増えています。

このテーマが「形式的な研修」になる最大の理由は、事業への接続が弱いことです。法令と規程を読み上げるだけの研修では、役員は「知っているつもり」で通過します。

事例ベースで、自社が実際に直面しうるリスクシナリオを討議する形式に変えるだけで、習熟度が大きく変わります。

ガバナンスは経営の守りだけでなく、意思決定の質を上げる仕組みでもあります。取締役会の実効性評価と連動させて設計すると、研修がガバナンス強化の実務と一体化します。

③ 人的資本経営と組織開発

人的資本経営は、2023年3月期以降の有価証券報告書で開示が義務化されたテーマです。役員層が全員共通で押さえるべき領域になります。

人材戦略と事業戦略をひも付けて語れること、エンゲージメントスコアや離職率といった組織指標を経営指標として扱えることが求められます。

エンゲージメントスコアとは、従業員が組織に対して感じる貢献意欲や愛着を数値化した指標のことです。

役員層がこの指標を経営会議の議題として扱えるかどうかで、人的資本経営の実装度が決まります。

単なる人事施策の報告ではなく、「人材ポートフォリオと事業ポートフォリオを連動させて議論できる状態」を目指すのが、このテーマの到達点です。

ドラッカーの「企業文化は戦略に勝る(Culture eats strategy for breakfast)」という言葉が示す通り、カルチャーと組織の議論は経営戦略の中核にあります。

④ DX・テクノロジーリテラシー

DX・テクノロジーリテラシーは、役員層がアレルギーを持ちやすいテーマです。

しかし、生成AI、クラウド、データ基盤といったテクノロジーは事業モデルそのものを変えています。役員がブラックボックスのまま意思決定すると、投資の優先順位を外します。

重要なのは、役員が手を動かしてコードを書けるようになることではありません。

テクノロジーの構造を理解し、技術投資の妥当性を判断できる問いを持てるようになることです。

「このシステム投資は、どの業務の生産性をどれだけ上げるのか」という問いを役員自身が立てられる状態が到達点になります。

自社のDX推進部門やCIOと共同で教材を作り、自社のIT投資計画をケーススタディに使うと、研修と意思決定が地続きになります。

⑤ 役員としてのマインドセット

最後に、役員としてのマインドセット、すなわち意思決定者としての判断軸と覚悟を扱います。

このテーマは抽象的に見えますが、実は最も行動変容への寄与が大きい領域です。マインドセットとは、思考と行動の土台となる認知パターンのことです。

マインドセットの研修でよくある失敗は、「覚悟を持ちましょう」「使命を自得しましょう」といった精神論で終わることです。精神論では役員の行動は変わりません。

マインドセットを扱うなら、役員の普段の意思決定パターンを言語化し、どの癖が経営判断を鈍らせているかを可視化する具体作業が必要です。

AND思考もこの領域の核になります。「短期業績か中長期成長か」「事業か組織か」といった二項対立で考える役員は、意思決定を単純化しすぎて機会を逃します。

どちらもやる前提で、順序とリソース配分を設計する思考が、役員層には求められます。

成果につながる役員研修の設計プロセス

役員研修を「良い話」で終わらせないためには、設計プロセスそのものを構造化しておく必要があります。

ここでは、5ステップで設計プロセスを整理します。このプロセスは、マネディクが300社の支援現場で使っている設計フレームの一部を、汎用化した形です。

  1. Step1. あるべき役員像の定義とギャップ可視化
  2. Step2. テーマの優先順位付けとスコープ設定
  3. Step3. 観測可能な行動に変換する「スキルマップ」の設計
  4. Step4. 実施形式の選択と組み合わせ
  5. Step5. 研修後のフィードバック・定着ルーチン

Step1. あるべき役員像の定義とギャップ可視化

最初に行うのは、自社にとって「あるべき役員像」の言語化と、現状とのギャップの可視化です。

ここを飛ばして研修テーマを決めると、テーマが流行りや個人の関心に引きずられます。

あるべき役員像は、中期経営計画から逆算して定義します。3年後にどの事業ポートフォリオで、どの市場で勝負しているか。

その状態を実現するために、役員層が持っているべき意思決定の質と知識の幅は何か。これを具体的な行動記述にまで落とします。

ギャップ可視化は、役員自己評価と360度評価を組み合わせるのが基本です。

自己認識と周囲の認識のズレが、研修で最初に扱うべき論点を浮かび上がらせます。

Step2. テーマの優先順位付けとスコープ設定

ギャップが可視化できたら、前節で整理した5つの必須テーマのうち、どこに時間とリソースを集中させるかを決めます。

全てを薄く扱うより、自社の経営課題に対して高いレバレッジが効くテーマに絞るのが、事業合理上の判断です。

例えば、新規事業の立ち上げフェーズにある企業であれば経営判断力と人的資本経営に重心を置きます。

上場準備中の企業であればガバナンスとコンプライアンスに比重を置く、といった具合です。

スコープ設定では、研修で扱わない領域を明示することも重要です。全てを1つの研修に詰め込もうとすると、どのテーマも中途半端になります。

扱わない領域は、別の施策(個別コーチング、外部講座派遣など)に振り分けます。

Step3. 観測可能な行動に変換する「スキルマップ」の設計

研修で身につけさせたい能力を、観測可能な行動レベルに変換します。マネディクでは、これを「スキルマップ」と呼びます。

形容詞・副詞を禁止し、誰が見ても達成度を判定できる行動記述にまで分解することがポイントです。

抽象語ではなく、観測可能な行動に変換する例

たとえば「戦略的に意思決定できる」ではなく、「取締役会で提案を評価する際、3つの代替案と撤退条件を必ず確認する」といった観測可能な行動に落とします。

行動レベルまで分解すれば、研修後のフォローアップで何を確認すべきかも自動的に決まります。

スキルマップを作ると、研修の成果が「変化したかどうか」ではなく「どの行動が、どの頻度で定着したか」で測れるようになります。

効果測定の議論がここで変わります。

Step4. 実施形式の選択と組み合わせ

テーマとスキルマップが決まってから、初めて実施形式を決めます。

集合研修、公開講座、役員合宿、エグゼクティブコーチングのうち、どれを主軸にするかは、扱うテーマとスキルマップの性質で決まります。

経営判断力のような知識習得が中心のテーマは公開講座や集合研修が向きます。

一方、マインドセットや判断軸の変容を狙うなら役員合宿や個別コーチングの方が効きます。

形式は目的から逆算するのが原則で、形式ありきで設計すると目的と手段が逆転します。

単一形式で完結させる必要はありません。集合研修でインプットを揃え、合宿で議論し、コーチングで個別課題に向き合う、という組み合わせが成果につながりやすい構造です。

Step5. 研修後のフィードバック・定着ルーチン

研修後の仕組みがないと、どれだけ設計の上流を磨いても行動変容にはつながりません。

スキルマップで定義した行動を、週次または月次でフィードバックするルーチンを組み込みます。

経営会議や取締役会のアジェンダに、研修テーマに関する議題を半年間組み込むのが有効です。

たとえば、ガバナンスをテーマにした研修なら、取締役会ごとに「意思決定プロセスの振り返り」を5分確保する、といった具合です。

事業KPIとの接続も重要です。研修テーマがエンゲージメントスコア、ROIC、離職率などの経営指標にどう影響するかを追跡します。

これにより、研修の投資対効果が議論可能になります。単発イベントから継続プロセスへ切り替える仕組みが、役員研修の質を決めます。

この5ステップに沿って、自社の役員研修の要件を整理したいと感じた人事・経営企画向けに、主要6社の研修サービスを比較した実務資料を用意しています。

導入企業の事例と選定時の判断基準が記載されており、自社の設計プロセスと照らし合わせて活用できます。

役員研修の実施形式と選び方

役員研修の実施形式は、大きく4つに分類できます。

それぞれの形式が向く目的を理解しておくことで、テーマに応じた形式選択ができるようになります。

集合研修(自社課題特化型)

集合研修は、自社の役員を対象に、自社の経営課題に特化したプログラムを設計する形式です。

カスタマイズ性が高く、自社の中期経営計画や業績データを教材として使えるため、研修と経営実務の距離が最も近くなります。

東京・大阪など本社所在地で開催されることが多く、企業研修として役員向けに実施する際の標準的な形式です。

講師の選定、教材設計、ディスカッション設計を自社向けにカスタマイズできる反面、設計コストと時間が必要になります。

自社課題が明確な企業や、役員間の共通認識を揃えたい企業に向きます。

反対に、まだ課題が漠然としている段階で集合研修を入れると、テーマが絞れず薄い内容になりがちです。

公開講座・他社交流型

公開講座は、複数企業の役員が集まる形式の研修です。

他社役員との交流、多様な業界の視点との接点が得られるため、自社に閉じた思考を相対化する効果があります。

経営者セミナーや経営者向けセミナー、社外取締役向けの公開講座など、テーマ別に多数のプログラムが存在します。

スケジュール調整が不要で、個別派遣で始められる点が導入のしやすさにつながっています。

一方で、自社課題への接続は自己責任になります。

役員に派遣するだけでは、学びが社内に還元されない「個人の勉強会」で終わる傾向があります。派遣後に社内で共有する場を設けることが、公開講座の効果を引き上げる条件です。

役員合宿(意思決定合宿)

役員合宿は、1泊2日〜3日程度で役員陣が集中的に議論する形式です。

通常業務から物理的に離れることで、日常の会議では扱いづらい中長期テーマや、役員間の本音の議論を引き出しやすくなります。

中期経営計画の策定タイミング、事業ポートフォリオの見直し、新規事業の意思決定など、重要な経営論点を扱う場として機能します。

マインドセット変容を狙う研修の中核としても使われます。

合宿の効果は、事前準備で9割が決まります。

議論のアジェンダ、事前インプット資料、各役員の発言データを整理したうえで臨むと、合宿が単なる懇親会で終わるリスクを回避できます。

エグゼクティブコーチング

エグゼクティブコーチングは、役員1人に対してプロコーチが継続的に伴走する形式です。

役員個人の判断パターンや思考の癖に踏み込めるため、マインドセット変容や重要局面の意思決定サポートに強みを持ちます。

集合研修や公開講座では扱えない個別テーマを深掘りできます。

次期社長候補の育成、新任役員の立ち上げ、キーマン役員のリテンションなど、戦略的に重要な対象者に投資価値があります。

コストは高めですが、対象が絞られている分、事業へのレバレッジが効きやすい形式です。

他の形式と組み合わせて使うことで、集合研修で学んだ内容の自社適用をコーチングで深める、という流れが作れます。

役員研修を失敗させる典型的な落とし穴

役員研修の失敗パターンは、ある程度類型化できます。ここでは、現場で頻出する3つの落とし穴を整理します。

企画段階で意識するだけで回避できるものが多い一方で、放置すると設計が崩れます。

「社長の指示」止まりで目的が共有されない

役員研修が動き始めるきっかけの多くは、社長や会長からの指示です。

「役員のレベルを上げろ」「他社に負けない役員陣を作れ」という指示で、人事・経営企画が動き始めます。

ただ、指示のまま研修を進めると、目的が曖昧なまま企画が走ります。

社長の指示を具体化せずに外部ベンダーに渡すと、ベンダー側で汎用的な役員研修パッケージが提案され、そのまま実施されるパターンに陥ります。

結果、社長の本当の課題意識と研修内容がずれます。

企画段階で、社長が何を問題視しているか、研修後にどの行動が変わることを期待しているかを、事務局側が1時間程度のインタビューで言語化しておくことが最低限必要です。

このセンスメイキング(腹落ちのプロセス)を飛ばすと、どれだけ良い研修を実施しても評価されません。

外部講師・ベンダーに企画を丸投げする

人事担当者の負担を下げるために、企画をベンダーに丸投げするケースがあります。

これは短期的には楽ですが、中長期的には研修の質と自社フィット度を下げます。

丸投げの何が問題かというと、自社の経営課題と研修テーマの接続が「翻訳されないまま」残ることです。

ベンダーは他社事例を持っていますが、自社の文脈を最も理解しているのは社内の人事・経営企画です。両者の知識を統合しなければ、自社に効く研修にはなりません。

外部パートナーを選ぶ際は、「パッケージを売るベンダー」ではなく「自社課題を一緒に言語化してくれるパートナー」を選ぶ視点が重要です。

提案段階で、自社の中期経営計画や組織課題をどこまで理解しようとするかが、ベンダーの目利き指標になります。

研修後の行動決定と経営会議への接続がない

研修最終日に「学んだことを明日から活かしましょう」で終わる研修は、ほぼ確実に形骸化します。

行動が決まらない限り、行動は変わりません。研修設計の最後に、研修後の行動決定プロセスを必ず組み込む必要があります。

具体的には、研修の最終セッションで各役員が「次の3ヶ月で自分が変える行動」を3つ宣言し、それを経営会議のアジェンダに組み込むフォーマットが有効です。

宣言した行動は、翌月の経営会議で進捗共有の時間を持ちます。

経営会議への接続がない研修は、どれだけ予算をかけても「研修のための研修」で終わります。

逆に、この接続があれば、数時間のシンプルな研修でも行動変容が起きやすくなります。

役員研修に関するよくある質問(FAQ)

役員研修の費用相場はどの程度ですか?

役員研修の費用は、形式と規模で大きく変わります。

相場感は、公開講座への役員1名派遣で1回10万〜30万円、集合研修で1日50万〜200万円、役員合宿(外部講師・会場費込み)で2日300万〜500万円、エグゼクティブコーチングで月10万〜30万円。

費用より、スキルマップ設計まで踏み込んでくれるかで選ぶのが合理的です。

役員の研修費は経費として処理できますか?(勘定科目)

業務上必要な研修であれば、役員の研修費も「研修費」または「教育訓練費」として損金処理できます。

一般的に、福利厚生費や交際費ではなく、研修費・教育訓練費の勘定科目が使われます。

ただし、業務との関連性が薄い教養系講座や、役員個人の私的な学習を会社負担とする場合は、給与扱いになる可能性があるため税務上の確認が必要です。

新任役員研修と既存役員研修の違いは?

新任役員研修は、会社法上の役員義務、取締役会運営、財務諸表の読み解きなど、役員として最低限知っておくべき基礎知識の習得が中心です。

既存役員向けの研修は、経営環境の変化に対応するアップデート(DX、人的資本経営、ガバナンス改訂など)と、マインドセット変容が中心になります。

対象別にプログラムを分けるのが基本です。

役員研修のおすすめの期間は?

形式によって最適な期間は異なります。

集合研修は1〜2日で特定テーマに集中、役員合宿は2〜3日で戦略議論と意思決定を扱う形式、継続プログラムは3〜6ヶ月で月次の集合研修と個別コーチングを組み合わせる形式が一般的です。

単発イベントより、3ヶ月以上の継続プログラムの方が行動定着には有効です。

女性役員候補者向けの研修はありますか?

女性役員候補者向けの研修プログラムは、多くの研修会社が提供しています。

経済産業省の女性活躍推進やコーポレートガバナンス・コードの多様性要請を背景に、導入企業が増えました。内容は、経営リテラシー、リーダーシップ、ネットワーキング支援が中心です。

女性役員比率の数値目標を持つ企業では、候補者パイプラインの育成施策として位置づけられます。

役員研修の効果はどう測定すればよいですか?

効果測定は「満足度」ではなく「行動変容」で見るのが原則です。

スキルマップで定義した観測可能な行動が、研修前と比べてどの程度実施されているかを、3ヶ月・6ヶ月・1年後にトラッキングします。

加えて、エンゲージメントスコア、離職率、経営指標(ROIC、売上成長率など)との相関を中長期で追跡することで、研修の投資対効果を経営会議で議論できます。

まとめ:「良い話」で終わらせない役員研修の要点

役員研修が形骸化する原因は、講師の質ではなく設計構造にあります。

対象定義の曖昧さ、教養偏重、講義中心、行動の観測不能性。この4つを避けるだけで、研修の歩留まりは大きく変わります。

扱うべきテーマは、経営判断力、ガバナンス、人的資本経営、DX、マインドセットの5分類が核です。

自社の経営課題に応じて優先順位を決め、スキルマップで観測可能な行動まで分解し、経営会議への接続を仕組み化する。これが成果につながる設計プロセスの骨格です。

役員研修を「良い話」で終わらせない設計を、自社でどう具体化するか。研修サービスの選定ガイドを参考にしながら、自社の経営課題と研修テーマを接続する作業から始めてみてください。

マネディクの300社の支援実績から整理した、選定時のチェック項目が記載されています。自社の検討フェーズに当てはめて、判断軸の整理にお役立てください。


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川﨑 俊介
記事を書いた人
川﨑 俊介

新卒で当時6期目(60~70名規模)の株式会社ジーニーへ入社。入社後3年間でリーダー、マネ―ジャー、部長とマネジメント経験を積み、入社後4年目で事業責任者兼執行役員に就任。組織も300名を超え、グロース上場を経験。 その後海外事業など含む複数事業の責任者、常務執行役員を経て、2022年に取締役に就任。経営企画や人事などコーポレート領域も管掌。組織規模としても1000名を突破。 2024年4月に独立し、個人で人事・経営コンサル業も成長企業に対して実施しつつ、同年12月にマネディク株式会社CEO/アクシス株式会社取締役COOにも就任。

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